第39話

 俺は雅深まさみと一緒に水族館に来ていた。


「綺麗だね」

「だな」


 コートは茶色で、白のタートルネック、ふんわりした淡いピンクのスカート。

 なんか俺、落とされるんじゃないのかな。

 ちょっとだけ引く。


「こうして2人で出歩くと、パッと見、恋人同士だよね」


 確かに。

 雅深は自然な感じで手を繋いできた。


「良い?」


 上目遣いで聞いてくる。


「別に」


 ふてくされるように言いつつ、勝手にしろと思いながら他の事を考える。

 本当は、お前じゃなく、あの子なんだけどな…。

 こういう所だって、一緒に行くなら…。


まさちゃん」

「おわっ!」


 ズイッと雅深の顔が目の前に。


「他の子を考えないで…私だけを見て?」


 潤んだ瞳にやられそうで、逸らした。


「わ、分かったよ…」


 俺は言う通りにした。

 ポケットが震えている。スマホだろう。


「悪い」


 俺は雅深から手を離してスマホを見た。

 着信は挑夢のぞむからだ。


「どうしたの?」


 俺の様子を伺う雅深。


「ちょっとトイレ」

「えっ」


 なとなく、雅深に見られてはいけないと思って、トイレに向かった。


「なんだよ」


 俺は手洗い場の前でメッセージを見た。


「…」


 絶句した。

 これってー…。


『挑夢、なんだよこれ!』

『やぁウッキー久しぶり♪』

『ふざけんな!』

『ごめんごめん』


 イライラする。


『僕は事実を伝えただけだよ?』

『さぁどうするの?というか…』


『どっちの女の子が好きなの?』


 この言葉に、俺はー…。



 急いで雅深の元に戻る。


「雅深」

「雅ちゃん遅いよ?次行こ、つ…」

「帰る」

「えっ」


 どうして?何を言ってんの?と、圧がきた。

 俺は怯まない。


「んじゃ、そういうことだから」


 そう言って、俺は走った。


「ま、待って!」


 追っかけて来る雅深から離れなければ。巻かないと。

 水族館を後にして、丁度来たバスに乗り込み、「時間でしょ?早く!」と運転手を急かさせて発進してもらった。

 席に座り深呼吸した。

 バスだと30分…大丈夫だろうか?

 不安な気持ちでバスに揺れながら、また挑夢とやり取りを始めた。

 文字で酔うのに、この時は酔うことはなかった。



 なんで…なんでよ!

 きっと挑夢ちゃん辺りが…油断してた。

 怒りが湧いてくる。どうすることも出来ない。

 早くしないと…我慢出来ない。

 私はタクシーを掴まえて乗り込み場所を伝えた。

 先回りしてやる。

 絶対に会わせない。



「お邪魔します」


 原田はらだ君が来た。


「今お茶とお菓子持ってくから先に部屋に行って。2階の奥が私の部屋だから」

「良いよ、手伝うよ」


 ヤバい、んだよね。


「良いから良いから!」


 強く言うと「分かった」と言って彼は2階に上って行った。


「ふぅ…」


 私はリビングに行き、用意していたあったかいお茶とお菓子をお盆に置いて、自室へ。

 その前に、物置きになりつつあるお兄ちゃんの部屋に寄る。


「みんな、大丈夫かな?」


 のんちゃん、つばめ、磯辺いそべ君、さとちゃん。

 リモートで杏子きょうこ先輩と金戸かねと先輩が見守っていた。

 声を出さないで、各々頷き親指を立てて私に伝えた。


「じゃ、また」


 そっとドアを閉めてから、ようやく自室に到着した。


「持とうか?」

「ううん、大丈夫大丈夫」


 対面で座り、お盆の上にあるお茶を原田君の所に置く。


「はい、お茶どうぞ」

「ありがとう」


 自分の所にもお茶を置いて一息。

 真ん中にお菓子を置いた。


「それじゃ始めよっか」


 勉強会が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る