第28話

 第2段階に進めようかな。

 あの子はあの子で

 絶対、雅虎まさとら君に近付けさせないようにー…。



 ここ1ヶ月、雅虎君との会話が全くなくなった。

 挨拶をすれば返ってくるけど、話しかけると素っ気ない。

 休み時間はずっとスマホをいじっている。

 誰かと連絡をしているのかな?

 ネットサーフィンとか?

 私は不安で堪らなかった。


 今は昼休み。

 緊張しながらいる。

 初めて来た生徒会室。


みやびちゃん緊張しないで!リラックス!誰も貴女を食べないから!」

「えっ、とぉ…」


 杏子先輩、緊張度合いが上がります。


「更にビビらせたらダメだよ~杏子きょうこちゃん」


 挑夢のぞむ君が居て良かった。


「ビビらせてなんか」

「いや、怖がってんぞ杏子?」


 何故か生徒会長さんまでいるし。


金戸かねと君、名字!」

「バレてんだから諦めろ」

「えっそうなの?」


 杏子先輩、知らないの!?


「うん、僕知ってるよ?全校生徒、ほぼ知ってる感じだし~」


 杏子先輩は目を大きく開いて驚いていた。


「秘密だったのにー!」


 顔を真っ赤にして、先輩は嘆いた。

 起伏が激しいのかな?大丈夫かな?心配。


「それじゃあさ、みぃちゃんの不安を解消するために、プレゼンを始めるね~」


 そう、昼食を済ませて集まっている。

 私の為に、ごめんなさい。


「あっ、待ってのんちゃん」


 私はある人にスマホでリモートを繋げようとすると。


「あはっ、大丈夫。もういるよ~。♪」

『はいはーい!みぃ、いるから!』

「いつの間に!?」


 いつから繋いでたの?びっくりだよ!


「これ、僕のパソコンでね~。生徒会室に先にいて繋いだんだ」

「そうなんだ」

「驚かせたいってつばめちゃんが言うから、ごめんね」


 苦笑の中に申し訳なさが滲んでいる。


「ううん、気にしないで」


 なんだか私、悪い事を言った感覚になり、シュンとなる。


「はいはい、気を取り直してプレゼン!時間ないんだから!」

「今日は特別時間割で昼休みが30分拡大だから大丈夫だって」

「あっ、忘れてた」


 金戸先輩と杏子先輩が生徒会に入ってから導入された月に1回の特別時間割。

 朝の1限目の授業時間を、読書の時間に当てている時間から始めて、10分の休み時間を5分に短縮する事によって、昼休みが30分拡大する事に成功。

 5限目のスタートは変わらずであるが、それでも生徒にとってはゆっくり出来るから好評で、導入してからは、各学年の成績が上がったそうだ。


「じゃあ始めるね~。先ずは、雅深まさみちゃんの生い立ちから見ていこう」


 配られた資料を元に、のんちゃんは説明を始めた。



「てことは、今は雅深は父親が連れてきた女の人と3人で暮らしているってこと?」


 腕を組んで真剣な眼差しでプレゼン資料に釘付けの杏子先輩。


「そういうこと~」


 のんちゃんの情報ってどこから仕入れて来ているのかな?

 とても気になる。


「次からつばめちゃんにバトンタッチするね~」

『あいよー!』


 待ってました!といった顔で、つばめは意気揚々と話し始めた。


『のんちゃんに頼まれてさ!あの、高嶺のお華ちゃん達に片っ端から声かけて、その内の仲良くなったお姫様ちゃんからの情報なんだけど♪』


 楽しそうだ、ノリノリじゃん、つばめ。

 笑いそうになるのを必死に堪える。


つぐみさんの性格がねー』

「「というと?」」


 続きを促す先輩方。息ぴったり。

 そんな2人は驚いて顔を見合わせて頬を赤くした。

 羨ましいなぁ。

 つばめはそんな2人に気付いていないのか、話を進める。


『それがですね皆様、次のページをご覧頂ければと思いまする』


 ページを捲る。


「うわっ…」


 目をパチパチと瞬きをした。


『わがまま、上から目線、男にはだらしない、という負の面と。頼れる、友達思い、優しい、美人、憧れる、といった表向き。つまり、人によって性格が全く違うから謎すぎなんですよ!』


 めんどくさい。

 性格良いのか悪いのか、どちらなのか。


『ただ共通点はあったのさ』

「共通点って何?」


 つばめはマグカップを口に運んで、ズズッとコーヒーを飲んで、テーブルにマグカップを置いてからゆっくりとこう言った。


『恐い、だって』

「「「「えっ」」」」

『何考えてるのか分からなくなる時がたまにあって、それが恐いってお姫様ちゃん達が言ってたの』


 私はなんとなく分かった。

 確かに、あれは分からないからこそ、恐くなる。

 折れないように守っても、ふとした時に隙を見せたら、終わる気がする。

 対面したからこそ、分かること。


「なるほどね」

「やっぱりスマホを持った時からだね~」

「きっとそうに違いない」


 幼馴染みの2人が言うならそうなのだろう。


『私の推測なんだけどさ』


 珍しい、つばめが発言するなんて。

 聞き専門な彼女が、発言するという貴重に私は少し驚きつつ傾聴する。


『本当の母親が居なくなって、心配でスマホを持たせた父親。その心配が増幅した結果、新しい母親を迎える事で解決すると思ったら、グレてんじゃないかと思ってね』


 なるほど…あるかもしれない。


『とっかえひっかえ男に甘えてストレス発散なんかね?』


 だとしたら、親子ですれ違いが起こった結果じゃん。


「あの~」

「どうしたの、のんちゃん?」

「う~ん」


 言いづらそうに、どうしようどうしようと悩むのんちゃん。


「のぞむぅ、隠してんでしょ?」


 杏子先輩?


「悩んでいる時ってだいたいこの子は打ち明けパターンが多いから、どうなの?」


 するとのんちゃんは深く息を吸って、ゆっくり吐いた。


「その、とっかえひっかえなんだけど、僕のせいかも」

『「「「えっ?」」」』


 いきなり何を?


「とっかえひっかえを見付けた時に、内緒で僕は動いたの。雅深ちゃんに会って過ごしていた男達と接触して、脅して…もう会うなって…はい」

「はぁー?!」


 大声を出したのは杏子先輩。


「えっ、だからとっかえひっかえ!?んなこと!」

「だって、ヤバい写真のデータとかあったから、削除させるために…」


 そういうことだったんだ。


「だから、とっかえひっかえになったのは、僕のせいかもで…」


 シュンとなるのんちゃん。


「あー、それはのぞむぅのせいじゃないし!あのバカの執着?みたいな感じでしょ!気にすんな!」

「杏子ちゃん…」

「今後一切勝手な行動は許さないからね!」

「はい、お約束します」


 反省しちゃったのんちゃんだった。


「大丈夫?」

「ありがとう、みぃちゃん」


 元気出して欲しいから、あとでお汁粉買ってあげようと、私は心の中で密かに決めた。



 休み時間が残り10分の所で解散した。

 後日またゆっくり話し合うことになった。

 教室に戻る時にスマホが震えた。

 あっ、もしかして雅虎君からかな!

 期待に胸を膨らませてスマホを見ると、見知らぬ番号からメッセージが届いていた。

 見てみると、驚いた。


『久しぶり雅。僕のこと、覚えてる?小学校一緒だった原田はらだ一平いっぺいだけど』


 一平君…あっ!

 サッカーが上手なあの一平君!?


『久しぶりに会って話さない?』


 私は早速メッセージを送った。


『久しぶり、誰から番号聞いたの?何はともあれ、会って話すならそうしよっか!あとでまた連絡するね』

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