第23話
「長く、なるけど」
「良いよ」
深く深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「あっ、私ちょっと職員室に行くからお留守番お願いね。何かあったら内線使いなさい」
保健室の先生は気遣いで出て行った。
ドアに掛けられている札を返した音がした。
不在にしたのだろう。
「ゆっくりで良いからね?ダメだなーって思ったら話さなくていいからね?」
「ありがとう」
琴坂といると本当に落ち着く。
良い子で、優しくて、恥ずかしがっている所なんて可愛くて、眼鏡を外せばレベルアップしてー…。
俺には勿体ないよ。
「んじゃぁ、話すな」
「うん」
張り詰めた緊張感の中で、俺はゆっくりと語り出した。
※
幼稚園の頃、最初に
1つ上の女の子2人。
それからよく遊び、小中まで同じ学校で、クラスがバラバラになっても、時間が合えば4人一緒に過ごしていた。
中学では、周りで恋の噂が飛び交うようになっていた。
これも成長なのだろう。
誰と誰が付き合っている、別れた。
あの人はモテる。あの人はだらしない。
いろんな噂がそんじょそこらに転がっていた。
俺達4人は恋とは縁遠いと思っていた。
それは“幼馴染み”という関係があったから。
俺は“幼馴染み”で良かった。
“幼馴染み”という“特別”で良かったのに。
ある日、雅深に呼び出された。
初めて2人で下校する。
その時に彼女から告白された。
最初は断った。
楽しい4人の時間が壊れるんじゃないか、それが気掛かりだった。
でも、雅深は「内緒にすれば良い」と言われてしまい、押し切られる形で恋人になった。
中学2年の夏休み前の事だった。
それからは、どんどん杏子と挑夢との時間は自然と減っていき、話すことも遊ぶこともなくなった。
2人に会っても、挑夢には
俺は雅深が居ればそれで良いと思った。
2人の時間は今までよりも楽しくて幸せだった。
女の子と恋人として初めて手を繋いで帰った時、とても幸福を感じた。
手を繋いだあの瞬間、電気が走ったようにビリビリッときた。
そして、初めてのキスは下手くそだったけど、それでも全身になんとも言えない感覚が襲った。
ドキドキと激しく鼓動を打ち、ブルッと震えた。
こんな美少女といけない事をしているのではないか、少し不安になった。
キスをしただけなのに。
浮かれて1年後。中学3年の文化祭。
見に来た雅深と一緒に校内を楽しく見て回っていた。
その後、友達から呼び出しの連絡があったとの事で雅深と別々になった。
つまんなくなりフラフラ歩いていると、衝撃的な光景を目にした。
「嘘…だろ…」
雅深は楽しそうに男と腕を組んでいた。
私服で大人っぽいその男は高校生だろうか、大学生か。
すると「
「見たんだね…」
「何か知ってんのか?」
嫌な予感がした。
「早く言わなきゃってタイミングを見ていたんだけど、なかなかなくて…」
「あたしも…注意して雅深を監視はしていたんだ…」
2人は何を言ってんだ?
「どういうことだ?」
言いずらそうにする2人。
「言えよ」
勿体ぶるな。
「早く、言えって!」
つい荒れてしまう。
「ごめん…」
「ううん、大丈夫」
「どっか…あっ!中庭行こ。そこで話すから」
俺達は中庭に向かい、そこに設置してあったベンチに並んで座った。
挑夢からは雅深がスマホを持ってから変わったと言っていた。
休みの日はよく男子といて、とっかえひっかえ。
さっきの人は高校生と挑夢は言った。
一方の杏子は挑夢の情報を元に常に雅深を監視していた。
休みの日には1度だけ尾行した事があったようだ。
その時は食事をして別れていたという。
そして2人はいろんな人から目撃情報を仕入れて、精査し、早く俺に伝えて離れろと言おうとした矢先で、あの光景に出くわした。
「…というわけだよ」
「傷付けてごめん、虎ちゃん」
落ち込む挑夢。半泣きの杏子。
「なーんだ2人もいたんだ」
目の前にいつからいたのか、雅深が立っていた。
「あんたね!」
杏子が飛び掛かる所を俺が制止した。
「虎、ちゃん?」
「座ってろ」
これは、この2人が間に入って解決することではない。
自分達で解決しなくちゃならない。
「さっ一緒に行こ?」
一見、ニコニコしている雅深。
よく見ると、怒りが滲み出ている。
きっと2人が邪魔なのだろう。
「ごめん、行けない」
冷静になれ、冷静になれ、と暗示をかけるように断った。
「どうして?」
「信用出来ない」
「えっ?」
深く息を吸う。
ゆっくりと吐く。
「他の男といたの、見た」
雅深は徐々に表情を無くした。
「あっそ」
それだけ言ってどこかへ去った。
この日を境に俺と雅深の関係は自然消滅した。
高校生になると信用している人以外とは行動をしないようにした。
それは傷付きたくなかったから。
あんな思いを、もう2度としたくはない。
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