第24話

「…なんか、ごめん」

「謝ることじゃ…」


 こんな話、くだらない。暗くなるだけだ。


雅虎まさとら君…」


 心配そうに俺を見る琴坂ことさか

 いたたまれない。逃げたい。

 立ち上がろうとした時、琴坂は俺の手にそっと手を重ねた。


「琴坂…?」


 意を決して琴坂は言った。


「改めてなんだけど…どうして、私だったの?」


 真っ直ぐ見詰める目に気圧されそうになる。


「誰とも話さない関わらない琴坂が気になって…」

「えっ?」


 そんな間抜けな顔をするなよ。


「自分からなんて、初めてだったよ…」


 振り返れば、運命だったのかな。

 一目惚れ…かもしれない。


「だから、俺、一歩踏み出しても良いかなって思って…話しかけた」


 みるみるうちに琴坂の頬は赤くなった。


「そう…だったんだ…」


 本当に、この子で良かった…。

 互いに沈黙していると、コンコンとノックの音が聞こえた。


「は、はーい!」


 慌てて琴坂は返事をして、手を引っ込めた。

 入ってきたのは。


「どう雅虎?」

挑夢のぞむ…」


 ホッ…知らない人じゃなくて良かった。

 と思っていると、挑夢の後ろからとんでもない格好の女の子が現れた。


「みぃ、雅虎君!どう似合うかな?」


 メイド服を着たつばめさんじゃないか。

 完璧に着こなしている。スゲェー。


「ちょっ、何で!?」


 琴坂はパニックになりかける。


「みぃ達がいないから、私とのんちゃんがお手伝い♪コスプレ最高ー!」


 大はしゃぎのつばめさん。


「大変だったよ~」


 2人のいつもの感じが、緊張感がなくなり、クスッと笑ってしまった。


「ありがとな、挑夢につばめさん」

「やっと笑った~」

「どういたしまして♪」


 それからは保健室の先生が戻って来るまで、4人で他愛ない話をしたのだった。

 こうして文化祭は閉幕したのであった。



「一緒に見て回れなかったな」

「ううん、大丈夫」


 俺と琴坂は下校していた。


「本当にごめん」

「謝らないで」


 後悔しかない。

 琴坂の楽しみを、踏みにじってしまった。


「なんかなー…」


 どうすれば挽回というか願いを叶えてやれるのか。


「気にしないでよ、また何か楽しい時間あるんだし」


 優しいな、琴坂は。

 それでも考えると、あっ!

 俺は立ち止まった。


「雅虎君?」


 不思議そうに一歩前にいた琴坂は、首を傾げて俺をじっと見る。


「俺ら、朝一じゃん」

「うん」

「片付けって、月曜に全校一斉にやるじゃん」

「うん…あっ、そっか!」


 やっと伝わった。


「朝に回ろう」


 すると、嬉しそうな顔になる琴坂。


「登校から一緒じゃダメ?」

「えっ?」

「もしもの設定で、私達は他校の生徒で挑夢君達とはお友達」

「おぉ」

「それで遊びに来た体で、どう?」

「面白いな」


 こうして俺と琴坂はもしもの設定のつもりで、見て回ることにした。



 月曜日当日。

 待ち合わせの十字路で琴坂と会った。


「おはよう雅虎君」

「おはよう琴坂」


 初めて登校する。


「早く行こう!」

「あぁ」


 少し早歩きで学校に向かった。

 学校に到着し、靴を内履きに履き替えた所で。


「スタートしようか」

「うん!」


 1階の教室から順番に見て回った。

 中に入らず、ドアを開けて覗く程度。

 展示物が掲示されている教室だけは入ってじっくり見た。

 お化け屋敷は外観からして怖さが伝わり近付けないと琴坂は怖がっていて、可愛いと思ってしまった。

 他にも古本市の教室では、欲しい本がたくさんと琴坂は買えない事にガッカリしつつ、見れたから良かったと嬉しそうにしていた。

 3階まで見て回り、やっと自分達の教室に到着した。


「楽しかったね!」

「だな」


 よほど楽しかったのだろう。

 良かった、一緒に回れて。

 約束が果たせて良かった。


「来年は必ず当日に一緒に♪」

「うん」


 1年後、楽しみだな。


「ちょっとだけ片付けない?」

「そうだな」


 てことで、俺と琴坂は鞄を置いて片付けを始めた。

 7時30分過ぎから続々とクラスメイト達が来て、自然とみんなも片付けに加わった。

 8時頃には全員揃い、朝の読書時間は片付けになっていた。

 担任が現れる頃には、机と椅子を整えれば終わる感じになっていた。

 すると、静かに出来るなら自由の自習にする、という約束で、他クラスは片付けをしている時間は各自自習する事になった。

 寝ている生徒もいれば、宿題をする生徒もいたり、読書する生徒もいて、各々自由に過ごしていた。

 俺は琴坂に教えて貰いながら宿題をこなしていた。

 琴坂は次の時間の予習。

 50分はあっという間に過ぎ去り、夢の時間は終わりを告げて、2限目からいつもの日常に戻ったのだった。

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