第18話

 文化祭前日。放課後。

 と言ってももう午後7時50分。

 校舎に鍵がかかる10分前。

 料理担当の3人は学校でお泊まり。

 その他に代表者で学級委員長の宮司みやじと、何故か俺まで泊まることとなった。

 受付担当代表だってさ。


「俺も泊まりてぇー!」


 わがままを言う磯辺いそべ


「代わって欲しいよ」


 ホームシックではないが、家が良い。


「うはっ、なら今からでも…」

「変更できるかー!」


 磯辺は宮司に怒られた。


「なんで、私まで…」


 そう、何故か琴坂ことさかも泊まるはめに。


「琴坂さんは接客担当代表だから!」

「えっ、別にリーダーではないのに」

「リーダーの子は親が過保護過ぎて許可下りなかったって言ったから、琴坂さんにお願いしたんだよ?」

「うーん…」


 そんなに学校嫌なのか?

 なんて様子を見ていると。


「ほら、宇城うき君いるんだし、良いでしょ?」


 ぐはっ…俺は関係ないはず…。


「うん、だね」


 納得してどうするよー!


「こら、磯辺は帰った帰ったー!」

「うぇーん宮司、俺を追い出すなんてー!」

「マジで先生に怒られるから!あと5分!」

「わーったよ!んじゃな雅虎まさとら!」

「あいよー」


 磯辺は鞄を持ってダッシュで出て行った。

 心配で窓の外を見ていると、校舎から走って出て、残り1分で校門を出た。

 すると、ピロピロリ~ンという間抜けなベルが鳴ると、ガガガガガシャンと校門が閉まった。

 ちなみに残業する先生達は裏から出れるので大丈夫。

 午後9時以降は警備員の人以外大人はいなくなる。


「さて、みんなで家庭科室に行こう」


 宮司の提案で俺達は家庭科室に向かった。

 夕御飯を食べるために。



「レトルトだけど許してくれ」


 料理担当の1人、紅林くればやしが準備したレトルトカレーを食べる。

 スープはインスタントのかき玉。

 チン、という電子レンジの音が響く。

 米を研いでいる時にこっそり作っていたやつが温まったらしい。


「はい、みんなにトンカツ」

「「「わぁ♪」」」


 作ったのは料理担当の1人、筒志つつじさん。

 磯辺曰く才色兼備の超絶美人だそうです。


「レトルトカレーが報われた、あんがと筒志」

「いいえ」


 謙遜しつつ、控え目に微笑む筒志さん。

 大人っぽいなぁ…。

 大和撫子っていうのかな。

 すると、足元からビリビリと電流のようなものが走った。


「!?」


 そして、じわりと足に痛みが表れる。

 隣を見ると琴坂が怒っている。

 まさか…。


「踏んだ?」

「それが?」


 嫉妬のようです。

 可愛いじゃねーかー!


「んじゃ、食べよっか」

「「「いただきまーす」」」 


 トンカツカレー、美味しく頂きました。


 明日は朝は料理担当の1人、金井かないさんが準備してくれるとのこと。

 磯辺曰く天然ふわふわ可愛い女子だそうです。

 あとでキツく締めとこう。



 教室にて、各自持参した寝袋に入って眠る。

 風呂は体育館の奥の奥に設置してある風呂場に、決まった時間帯の時に行った。

 順番は3年生の女子から始まり、2年生女子、1年生女子。

 30分空けて男子が年功序列で入った。


「ねえ、怖い話しない?」


 ワクワクしている宮司。


「嫌だよぉ」


 怖がる金井さん。


「ふざけてないで、寝よう」


 冷静に優しく言う筒志さん。


「明日のためにも、早く寝た方が」


 しどろもどろの琴坂。

 一方で。


「俺ら、忘れられてんじゃね?」

「確かに、女子の方が多いしな」


 男2人、肩身が狭い。


「んじゃぁ、寝ますかーおやすみ~」

「「「おやすみ」」」


 それから静まるのは早かった。



 頭が冴えていて眠れない。

 愛用の枕がないと寝れないタイプではないのにな。

 他は皆ぐっすりだ。羨ましい。

 月の光が眩しいなと思って窓の方を見ると、誰かが立っていた。

 もぞもぞと寝袋から出て、その人に後ろから静かに近づいてみた。


「ゎっ…!」


 振り返ったその人は、驚いた顔で俺を見ている。


「よっ」


 起きていたのは琴坂だった。


「寝れないのか?」

「雅虎君もでしょ?」

「まあな」


 今日の月は満月か。少し大きく見える。


「綺麗だね」

「そうだな」


 確かに月は綺麗だ。

 でもー…。

 琴坂の横顔が綺麗だ。

 月の光がより美しさを引き出しているようでー…。

 鼓動がだんだん早くなる。


「じっと見ないでよ」


 俺の視線に気付いて、もじもじと恥ずかしそうにする琴坂。

 そんな仕草も反応も可愛いなぁ…。

 俺、麻痺ってるかも。バカだな。


「寒い…」


 夜はだいぶ冷えていた。

 はぁと琴坂は両手に息を吹きかけて温める。

 …良いかな?どうかな?


「琴坂、ちょっと手を」

「手?」


 素直に琴坂は右手を差し出した。

 不思議そうな顔をしている。

 俺はその手を優しく握って、体育着の上着のポケットに突っ込んだ。


「ぁっ、ぇっと…」

「嫌か?」


 付き合ってもないからな、嫌がられたら離せばー…。


「ううん」


 頬をほんのりと赤くして。


「あったかい、ありがとう」


 琴坂は嬉しそうに微笑んだ。


 この子を好きになって良かった。

 必ず、気持ちを伝えないとな。

 あと、名前で呼ぶこともお忘れなく。


 この時間が永遠に続けば良いのにー…。

 シンデレラの魔法が解けるように、琴坂は眠いと言って、繋いだ手を離した。

 名残惜しい気持ちを我慢して、寝袋に入る。


「おやすみ、雅虎君」

「おやすみ、琴坂」


 今日も今日とて、進展したようで、しなかった。

 それでも、尊い時間を2人で過ごすことが出来たのだった。

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