第14話

 俺のクラスは教室で喫茶店をやる事になった。

 コンセプトは見た目ファンタジーな感じ、提供メニューは和食。

 あべこべが何か面白い、だそうだ。

 すまん、本気で興味がなくて半分聞き流しているのでご了承を。

 料理担当、宣伝&受付担当、ウェイター&ウェイトレス担当と分かれ、教室の飾り付けなどは全員でやる。

 体育館でのステージ発表はやらない事にした。

 和食はおにぎり。

 梅、鮭、ツナマヨ、昆布、具なしの塩むすびから2つまたは3つ選んで、そこに味噌汁と漬け物をプラスする定食に決まった。

 俺は宣伝&受付で午前の部を担当にした。

 やる気が全く出ない。

 何故?いろいろあんだよ。

 うるさい磯辺いそべはウェイターで午前の部を担当。

 どうせ可愛い女子に声をかける口実にすんだろうが。

 はぁ…午後、帰ろうかなー。

 なんてボヤッとしていると、隣からちょんちょんと腕をつつかれた。


「どうした琴坂ことさか?」

「私、どうすれば良いかな?」


 あれ?

 黒板を見ると、名前が書かれたペラペラのマグネットが担当の下に貼られてある。

 琴坂のはー…ない。

 隣を見ると机の上にあった。


「行けよ?」

「嫌だ」

「何で?」

「分からないもん」


 なるほど、迷ってんのか。ふむふむ。


「俺と一緒に受付やるか?それとも接客のウェイトレス?残りは重労働の料理だぞ?」

「うー…」


 迷ってんな。困ったな。

 どう背中を押せば良いのやら。

 俺も悩み出すと。


「琴坂さん?」


 学級委員長の宮司みやじが琴坂に声をかけてる為に、席まで来てくれた。

 クラスの視線が琴坂と宮司に集まる。


「あの、どれにする?」

「…」


 俯いてしまった琴坂。

 あー、もどかしい。


「もしやりたくないなら、教室の飾り付けだけ頑張ってもらって、当日どうするかは自由に決めても良いけど…」

「宮司、待て」


 俺は無意識に椅子から立った。

 それはない、あり得ない。


「よっ!王子様!」

「磯辺、お前は黙ってろ」


 変なタイミングでちゃかすな。

 すると磯辺はヤバいと察知したのか肩を竦めて大人しくなった。


「宮司、琴坂を外すのはなしだろ」


 俺はそう感じたから言ってやった。

 琴坂は驚いた顔で俺と宮司を交互に見る。


「外すだなんて、そんなこと」


 本人からしたらそうだろう。でもな。


「言い方がそういう風に受け取れる」


 宮司は肩を落としてシュンとなる。


「ご、ごめん…」


 これが現実なんだ。

 琴坂がいかに拒絶してきたか。

 代償は大きいようだ。

 だから、俺は琴坂の背中を押してやりたい。

 大丈夫だと、誰もお前を傷付けない、て。


「どうする?」


 俺は席に座り琴坂と向き合う。


「えっ?」


 ポカンとすんなや。

 可愛いなぁー…じゃなくて。


「どれやりたい?」


 小さい子供に優しく話しかけるように言った。

 同い年なのに、手のかかるやつだ。

 琴坂は少し考えると、俺を見ず宮司を見た。


「宮司さん」

「は、はい」


 少し震えている琴坂。

 頑張れ、頑張れ。


「私…私…」


 頑張れ、頑張れ。


「ぅっ…ぅっ…」


 えっ、ちょい。


「琴坂、大丈夫か?」

「ぅっ…ぅー…」


 ぜえぜえと、呼吸が荒くなっていく。


「大丈夫?琴坂さん!」


 クラス中がざわつき出す。

 えっと、えっと!?過呼吸か!?

 だんだん焦る俺だったが。


「…ウェイトレス、やりたいです!」


 琴坂の大きな声が教室に響いた。


「琴坂さん…」

「はっ…あっ…」


 顔を真っ赤にして目が泳ぎぐるぐるしている。

 本人、大混乱。


「だ、だめなら…あきら、めま…」


 今にも倒れそうな所で。


「やっと意思表示してくれた、ありがとう!」


 宮司は琴坂の両手をぎゅっと握った。


「ふぇ?」


 一時停止する琴坂。


「一緒に頑張ろうね!午前と午後どっちにする?」

「え、と…午前が良いです」

「分かった、良いよ良いよ!」


 宮司の嬉しさがクラスに伝わって和やかに。


「よし、全員決まったし、さっそく取り掛かろう!」

「「「はーい」」」


 ふぅ…焦った。

 琴坂も一呼吸して落ち着いた。

 決まって良かったが。


「何でウェイトレス?」


 対人恐怖症のようなことがあるから疑問に。


「克服するため」


 なるほど。


「午前にしたのは、午後は雅虎まさとら君と一緒にと思って」

「えっ」


 急にドキッとすることを言った琴坂だった。

 あー、作業に集中出来るかな?


 

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