回想 平柳つばめ視点

「おっはよ!」

「…」


 元気のないみやび。どうしたのかな?

 机がなんだかおかしいような…。


「何…これ…」


 チョークや油性ペンだろうか。

 ぐちゃぐちゃに、悪口が書かれていた。

 中学2年の冬休み明けの事だった。



 ことの発端は分からなかった。

 私はありとあらゆる手段を使って調べた。

 誰が雅をいじめているのか。

 理由、きっかけはなんだ。

 もう少し我慢して。

 私は1日でも早く解決したかった。



 見付けた、首謀者とその仲間2人。

 私はいじめのターゲットになる覚悟で3人に接触。

 理由を問い詰めた。

 すると、主犯格であるリーダーの女子が呆れたような、私をウザい対象のような感じで。


「好きな人に近付いたから」


 耳を疑った。

 たったそれだけで?

 実行したと?

 おかしい。


「近付くな、話すなって言えば済むんじゃ…」

「済まなかったから、攻撃しただけのこと」


 狂ってる。


「彼にも言ったの、あんな子より私を見てって」

「それで?」


 なんとなく、先は読めている。

 たぶん、その人はー…。


「あの子の方が良いって…」


 やっぱり、でしょうね。


「だから、ムカついて、悔しくて…!」


 今の貴女では振り向かない。

 おかしいから。

 それを、友達である後ろにいる2人は何故止めない?


「まだ、いじめるの?」


 すると、主犯格の女子はニコッと笑い。


「うん!」


 そう言って、3人は教室に戻って行った。



「みぃ?」

「あっ、つばめ…」


 無理やり作った笑顔が悲しくて、チクチクと心を痛める。


「ごめん…止めれない…」


 私は謝罪した。


「はは…仕方がないよ…」


 1番辛いのは雅なのに、何にも出来ない。


「大丈夫、大丈夫だから」


 そう言って、雅は保健室へ行った。

 それからは、卒業式前日まで、保健室登校となってしまった。



 高校生になると、雅は友達を作らないと決めて過ごしていた。

 昼休みは必ず私と電話する日課になっていた。

 そんなある日の事。


「彼氏が出来たんだ」

『えっ?嘘!』


 SNSで知り合った3つ上の社会人だそうだ。

 雅にとって初めての彼氏となる。

 まだ会った事はなく、遠距離とのこと。

 私は少し油断していた。

 そういう出会いは当たり前とは言え、先を見通す事をせず、祝福をしてしまった事に後悔する。



 その彼との話をよく聞くようになり、夏休みに1度会ったそうだ。

 手を出さないだけ安心はしていた。

 けれども、モヤッとした感覚は拭えない。

 冬休みに入ると、また彼に会えると嬉しそうに話していた。

 ここで、私は、今回は見送ったら、と言えれば良かった…。


「つばめー!早く早く!」

「なにぃ~おっかあ?」

「雅ちゃんが家に!」

「はぁ!?」


 急いで玄関に向かうと、雅は俯いていて泣いていた。

 上から下までびしょ濡れ。


「風邪引く、上がって!」


 とりあえず中に入れて、真っ直ぐお風呂に直行させて、雅のお母さんに電話して泊まる事にした。

 その日の夜。


「ごめんね、迷惑をかけて」

「大丈夫だから」


 この世の終わりのような顔で、私は何と声をかければ良いのか分からない。

 黙って私は彼女から話し出すまで聞かないようにした。

 他愛ない話をしていると。


「つばめ…別れた…」


 突然、話題が上がった。

 付き合い始めは良かったが、3ヶ月くらいから所謂停滞期に入り、そこからだんだんすれ違いが始まった。

 お揃いのキーホルダーがいつの間にか鞄から消えていて、怪しく思っていると、SNSで他の人と仲良く話している所を見付けて。


「我慢していたけど…限界がきてね」


 それで今日直接問い詰めたら、彼から「別れよう」と言われたとのこと。


「他に好きな人が出来たから、じゃあねって…」


 言葉が出なかった。


「私なんか、まだまだお子ちゃまだったんだよ」

「その好きな人って同い年って言ってた」

「体がどうのこうの言ってたから、相手になる人が結局良かったんでしょうね」

「私は出来ない、他なら出来る…その差、かな…」


 私は雅を抱き締めた。


「もういい…ツラいでしょ?もういいから」


 すると、「うっ…ううっ…」と雅は次第に声を出して泣きわめいた。

 私はただ頭と背中をさすってあげる事しか出来なかった。

 次の日、帰り際。

 私は途中まで雅を送った。


「それじゃ、またね」

「うん、ありがとう」


 たくさん泣いたからか、スッキリしている。

 でも、なんだか、何か決意したのか、それがひしひしと伝わる。


「つばめ」

「どした?」


 知らんぷりして聞いた。


「私、決めた」


 黙って先を促す。


「もう、誰とも関わらない…信用している人以外…絶対…」


 もうこれ以上、傷付きたくない、表れだった。


「迷惑だったら言って?すぐ消えるから」

「雅、私達親友でしょ!そんなこと言わないの!怒るよ!」

「つばめ…」


 また泣くの?


「こら、泣かないの!」


 雅の頬を両手で包む。


「私はずっと雅の味方だから!」

「うん」

「変な人が出たら言って!私がボコりに行くから!」

「うん、うん」


 どんなことがあっても、私は雅の味方。

 1番の味方なんだからー…。

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