第10話

「…分かったかな?」


 まだそんなに仲が良いという訳ではないから、知らない事があってもおかしくはない。

 しかし、今の話を聞いて、俺は震えている。


雅虎まさとら、大丈夫?」


 心配そうに俺を気遣う挑夢のぞむ


「大丈夫だ、ありがとな」


 絞り出すのがやっとだ。


「じゃあ、今から雅虎君は公園に行って」


 えっ?何で?

 思考停止していると、次の言葉に驚く。


「みぃの事、呼び出してあるから」


 えっえっ?

 頭がパンク寸前に。


「雅虎君が来るなんて知らないから安心して!」

「あの、なんで…」


 まだ半分も理解していないと思うのに。

 すると、つばめさんは椅子から立ち、俺の背後に来て。


 バンッ!

 

 背中を叩かれた。


「さあ、行って!」


 それが合図だったのか、一気に決意が湧いた。


「これ、俺の分、払っといて」

「了解」

「つばめさん、ありがとう」

「いえいえ」


 急がないと。


「雅虎君!」


 振り返る。


「みぃの事、みやびの事、よろしく」


 俺は頷き、ファミレスを出た。



 公園の出入口が見えて来た。

 全速力で走って来ているから、この後きちんと話せるだろうか。

 いや、そんな事を考えている場合ではない。

 琴坂ことさかの事を第一に考えないと。

 公園の敷地に入ると、俺は立ち止まる。


宇城うき…君…」

「琴坂…」


 ベンチに座る琴坂の所に近づき、隣に座った。

 2人分のスペースが空いている。

 これが今の距離なんだろう。

 息切れが落ち着いた所で、俺は言った。


「なぁ琴坂?」

「…」


 琴坂は俯いて黙っている。

 仕方がない、一方通行にしよう。


「今から話すから聞いてくれ。反論などがあれば受け付ける」


 琴坂はビクッと反応した。


「大丈夫」


 優しく言う。


「怖がんないでくれ」


 そう、ただ聞いてくれ、俺の話をー…。



「さっき、つばめさんから聞いた」


 すると、琴坂は驚いた顔で俺の方を向いた。


「会ったの?」

「この前、ぽちゃおと会ったろ?アイツ経由でな」

「えっ、ぽちゃお君、つばめとお友達?」

「うーん…俺からしたらそれ以上なんじゃないか?」

「…可愛いからね、ぽちゃお君」

「アイツの名前、挑夢のぞむな?」

「あっ、ごめん」

「いやいや」


 ん?脱線してる、軌道修正しないと。


「話を戻す」

「うん」

「聞いて俺は震えた」


 そう、世の中にそんな事が起こるのか。

 通常ではあり得ない、残酷な事。

 俺の周りにはいなかったから、現実にあるのが衝撃的だった。


「…引いたよね」

「いや…でもな」


 、なんだよ。


「俺は、琴坂ともっと関わりたいと思った」


 隣の席同士になったあの日から、俺は君に、いつの間にか夢中になっていたんだから。


「だから、、なってくれよ」


 この想いはまだ明かさない。

 順序立てて、距離を縮めよう。

 その始めが、


 琴坂は目に涙を溜めて。


「また…また…起こったら、嫌だ…」


 ハキハキとした通る声は弱々しい。


「起こらないよ」

「だって!」

「俺がいる!」


 頼ってくれ。


「それに…」


 どうしようもないな。


「俺らはいくつだ?高校生だぞ?ダッセーことしないだろう」


 という、ダサいこと、する歳ではないから。


「もし、起こったら、俺がお前の盾になる」

「えっ…」


 俺はベンチから立ち上がって、琴坂の前に立った。


「必ず、護る」


 真っ直ぐに彼女の目を見詰める。

 吸い込まれそうな、綺麗な瞳に圧倒されそうになる。

 数秒、見詰め合ったからなのか。

 だんだん琴坂の顔は赤くなっていく。

 そして、琴坂もベンチから立ち上がって、俺をドンと押して走った。

 ふらついた俺は上体をなんとか倒れないようにして、急いで振り返り、追わなきゃと思ったら、琴坂は俺に背を向けて立ち止まっていた。

 そのままで彼女は一言。


「約束、だからね!」


 大きな声が公園中に響く。


「ちゃんと、守ってよ!」


 と言って琴坂は俺の方に振り向いて。


 あっかんべーをした。


 俺は拍子抜けしつつ、直ぐに笑った。


「守るに決まってんだろ!」


 琴坂も俺の笑いにつられたのか、初めて彼女の笑顔を見た。

 太陽のように輝き、ひまわりのように可愛かった。

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