第8話
関わらないで、とハッキリと言ってから本当にそうなった。
全く話しかけてこない。
朝は早く来なくなる。
じろじろと見てくる視線がなくなる。
何もかも、振り出しに戻った。
心にぽっかりと穴が開いて、冷たい風が吹く。
淋しく感じる。
いつものように、お昼につばめと話していていても、どこか上の空。
集中しているのに、ケアレスミスが続く解答の数々。
どんどん悪化を辿っていた。
そんなある日。
帰りのホームルームが終わって直ぐに教室を出て、玄関で上履きから外履きのローファーに履き替えた所。
「こんにちは」
「?」
知らないぽっちゃり男子に声をかけられた。
「ちょっとだけ、時間を下さい」
ニコニコしている。
悪い人ではなさそう。
「分かり、ました」
「ありがとう」
何だろう…可愛い…。
少しだけ表情が緩んだ気がした。
※
「本当にありがとう」
「いえ…」
私とぽっちゃり君は公園のベンチに並んで座っている。
「はい、これお汁粉」
「あっ、別にいいんですが」
「いいからいいから、美味しいよ~」
「ありがとう、ございます」
渡された缶のお汁粉。
この人、甘党なのかな?
ぽっちゃり君もお汁粉を飲むために缶を開けた。
「ん~、美味しそうな匂い♪」
私もつられて缶を開けた。
確かに美味しそうな匂いだ。
「乾杯、なんてね」
「ふふっ」
ハッ!笑ってしまった!
「うん、女の子は笑顔が1番だね」
そう言いながらぽっちゃり君はお汁粉を一口。
「うん、美味しい~♪」
ふにゃって至福の顔になった。
可愛い…可愛すぎる!
「そうだ、僕は
「あぁ…私は
「孤高の女子高生なんて言われてるの知ってる?」
「はい、知ってます」
「そかそか~」
いつからか、そう言われていた。
誰がつけたんだ、変な異名をつけないでと思ってる。
「嫌なんだ」
「えっ、と」
「顔に書いてる」
優しい表情だけど、どこか憂いられている気がした。
「何で、そうなっちゃったかな?考えた事はない?」
「それは…」
考えた事はある。
というか、分かってる。
「僕ね、どうして琴坂さんが単独行動しているのか気になってね」
ゆっくりと言う三瓶君。
「何か訳でもあるのかなーと思ってね」
黙って聞く。
「よかったら、教えてほしい」
ハッキリと言われた。
真剣そのもの。
「まぁ、いきなり声かけた見ず知らずの男子に話すのは躊躇われるよね、無理しなくていいよ、その時は諦めるから」
…
「ごめん、いきなりだったね」
彼は飲み干したお汁粉をゴミ箱に捨てにベンチから立ち、自販機に向かって歩いて行く。
カラン
缶が捨てられた音が聞こえた。
ゆっくりと彼は戻って来て、またベンチに腰かけた。
その間、私は…私は…。
「あの、独り言と思って黙って聞いて下さい」
三瓶君は驚いた顔になって、ふっと優しい顔になった。
「うん、いいよ」
唯一知っている親友のつばめにしか話さなかった事を、見ず知らずの男子に語ったのだった。
※
琴坂さんが帰って30分は経過した。
僕はまだ公園にいて、さっき聞いた独り言を頭の中で整理していた。
「これは…ムズいね~」
頭をぽりぽり。
僕は調べるに辺り、真っ先にSNSを探した。
でも見つからず、諦めて次に琴坂さんを知る中学の同級生や去年同じクラスだった人達に聞いてみた。
なかなか情報は得られず、1週間は経っていたそんな時。
たった1人だけ小さな情報をキャッチした。
その子は琴坂さんと同じ中学で、その中学で琴坂さんと仲の良かった人のアカウントを教えてもらった。
早速僕はその人にダイレクトメッセージを送った。
すると秒で返信が来た。
僕は自己紹介をして丁寧に説明をした所、その人からこんな返信が来た。
『本人に聞いてみて。大丈夫、あなたは物腰が柔らかいからきっと素直にあの子は言うはずだよ。何かあれば連絡ちょうだい♪』
ということで僕は行動に移した。
本当に素直な子だった。
話せば分かる。
誰だ、孤高の女子高生なんてつけたのは。
まとめて暴いてやろうかな、なんてね。
そして、今はというと。
「なんて書こうか」
伝わり方が間違えてしまえば、拗れてしまう。
それだけは避けたい。
だって、だって、ね。
「好きなんでしょ、絶対そうだ」
で、
琴坂雅は宇城雅虎が好き。
なんだから。
「ふぅ…報告書はなし、話すしかないね」
僕は雅虎にメッセージを送った。
『明日の放課後、僕ん家に来て。報告書はなし、直接話す。以上』
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