第3話

 早起き出来た日は、さっさと準備して学校に向かうようになっていた。

 何故だろう?

 そんなことを思いつつ、教室に入るとやはり居た。


「おはよう」

「おはようございます」


 琴坂ことさかが居た。

 俺は自分の席に着き、鞄から教科書などを机にしまう。

 いつの間にか、琴坂が勉強する所を眺めるのが好きになっていた。

 まじまじと見ると怒られる為、チラッと。

 さりげなく、こっそり見るのだ。

 横顔、綺麗だな。

 眼鏡からコンタクトにすれば良いのに。

 似合うぞ、絶対。

 言ったら怒られるかな?止めよう。

 今日も今日とて、俺はマイペースに過ごす。

 今日の体育って確か…回って踊るんじゃなかったか?



「全員、位置につけー!」


 体育教諭の指示に従い、全員位置につく。

 大きな輪を作った。

 と言っても、外側男子で内側女子、それぞれの輪、上から見ると二重丸になるのだ。


「よし、曲かけっから躍りながら回れよー!」

「「「はーい」」」

「んじゃ、スタート!」


 音楽がCDラジカセから流れた。

 今回はフォークダンスである。

 ペアがどんどん変わるという。

 思春期真っ只中の高校生、手を繋ぐ行為自体、ドキドキものだ。

 無になるのだ。そう思っていると…。

 琴坂とこんにちは。


「よろしく」

「はい」


 こういうの苦手なんだろうな。

 ヒシヒシと伝わる。

 だって機嫌悪いんだもん。

 むすっとしているし。

 そんなに嫌なら休めばいいのに。

 すると曲の良い感じの所で音楽が止まった。


「5分休憩ー、最後にマイムマイムやっからな!」

「「「はーい」」」

「さっきの位置覚えとけよー!」


 ということで、5分の休憩。

 クラスメイト達は一斉にいつもの友達と合流してしゃべり出す。

 体育館が賑やかに。


「よっ」

「おう」


 磯辺いそべがやって来た。


「女子と手を繋ぐ…ヤベェな」

「はいはい」

「んだよ、緊張しないのか?」

「するよ」

「だろう?」


 なんかニヤニヤしてないか?


「次、マイムマイムってことはよ、ずっと手を繋ぐわけだな」


 バカだコイツ。


「俺の両手の華はまさに華」


 あー、学年で上位にモテる女子だっけ。


「可愛い金井かないさんと美人の筒志つつじさん…ぐふっ、ぐふふ」


 はぁ…マジでバカだコイツ。

 俺は…あー、うん。


雅虎まさとらは琴坂さんとだろう?」

「それがどうした?」

「琴坂さんの隣は右にお前で左に三好みよしさん、だから男子とはお前とだけ」


 嫌がられるなこりゃ。

 いや待てよ?

 両脇男子なら不機嫌でも、俺だけなら…。


「機嫌、なおるかな…」

「はぁ?」


 心の言葉がそっくりそのまま口に出してしまった。

 磯辺の顔は間抜けに磨きがかかった。



「ほんじゃ、手を繋げ!」


 体育教諭の指示に従い、全員手を繋ぐ。


「痛くないか?」

「大丈夫です」


 うーん、不機嫌じゃん。


「んじゃ、スタート!」


 曲が流れた。

 振り付け通りに踊る。

 歌う所は歌い、掛け声だって忘れない。

 ふざけた男子(磯辺を中心に)がバカデカイ声で盛り上げる。

 すると笑いがドッと溢れた。

 楽しくやるのが1番だよな。

 俺は琴坂の様子を見る。

 おっ?

 ちょっとだけだが、優しい表情になっていた。

 なんだ、楽しそうで良かった。

 俺は琴坂の手を労るように、なるべく優しく繋ぐ事を意識して踊るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る