第一部
第1話
目覚めが良すぎて、早く学校に来てしまった。
時刻は午前7時過ぎ。
どうせ誰もいないだろう…。
なんて思って教室のドアを開けた。
「「あっ」」
目が合った。
「おはよう」
挨拶してみる。
「おはよう…ございます」
返ってきた。
「朝早いんだな、いつも?」
「まあ、はい」
隣の席の孤高の女子生徒・
何かに集中しながら会話してくれている。
「それ課題?」
「いえ、予習です」
真面目かよ。
「なぁ?」
「その質問で終わりにして下さい、集中したいので」
こりゃ参ったな。
「分かった、約束する」
頭をぽりぽりかいて。
「家で何時間寝てんの?」
「え?」
変な質問なんかしてないが。
「…8時間、寝てます」
「マジかよ」
しっかり寝てんだな。
俺なんて深夜0時に寝ているから。
ついついゲームに夢中になるからさ。
「部活には入っていないので、学校が終われば真っ直ぐ帰宅してすぐ宿題に取り掛かりますので」
おー、なんということだ。
琴坂からしたら俺なんて自堕落に見えかねないじゃないか。
「そうか、ありがとう」
「いえ、別に」
会話は終了した。
俺は鞄から教科書ノートなどを机にしまっていると、何かに気付いた。
「やぁっべっ…」
現文の教科書忘れた…。
今から家に戻るとなると30分、どう考えても遅刻になる。
「あのー…」
横目で琴坂を見ると、俺の声を聞いていないと言わんばかりに無視をしている。
仕方がない。
「あのー、琴坂さん?」
すると、ギロッ、と睨まれた。
うっ…、そんな目をしないでくれ。怖いよ。
声をかけるなとの約束、もう破らせてもらう。
「2限の現文、教科書を見せてくれ、頼む」
俺は頭を下げて琴坂にお願いをした。
「はぁ…」
琴坂は溜め息を吐いた。
おや?この反応はもしかしてと期待する。
「2度と忘れちゃダメですからね」
遠回しに許しを得ました。
ありがとうございます、琴坂様ー!
※
昼休みに入る。
「ありがとな、午前は」
「別に」
すると琴坂はお弁当を持って教室を出て行った。
一体どこに行ったんだ…気になる…。
「よぉ!」
「おっ!」
親友の
「いつもんとこ行くぞー」
「へいへい」
琴坂の居場所が気になりつつも、俺は磯辺と共に特等席へと向かった。
※
「はぁー!やっぱここ最高だな!」
「まあな」
高校にしては珍しい健康坂と呼ばれる坂がある。
その坂は綺麗に手入れがされた芝生が、天気の良い日には気持ち良く、寝転がると柔らかな布団のようで眠くなってしまう。
持参したシートの上で今日も今日とて校内でピクニック擬きである。
「なな?」
「ん?」
短い会話から始まっても分かる、さすがだ。
「お前さ、琴坂さん隣だよな?」
「あー、はいはい」
「何も喋んないんだろ?」
「話し掛ければ話すぞ?」
「うわ、マジか!」
まぁ、そりゃ驚くよなー。
誰とも会話をしないからな。
「
うっ…嫌な予感…。
俺は飲もうとしていた缶コーヒーを一旦口から離した。
「お前なら、多分だがさ、琴坂を変えられんじゃね?」
ん?前置きなど何もないからピンとこない。
とぼけた顔をして、こう言った。
「何を言ってんだよ」
「俺の勘はそう感知した!」
根拠のない自信ですか。
磯辺は俺の肩にポンと手を置き。
「かけても良いぞ?お前と琴坂が仲良くなんの」
「いやいや」
何なんだ磯辺。
あんな女子と仲良くなんか出来るか。
警戒心剥き出しで、話しかけんなオーラ全開なんだから、心を開かせるなんて無理に決まっている。
磯辺はニヤニヤした顔でこう言った。
「孤高の女子高生を落とせ、面白くなってきたな!ガハハッ!」
バシバシと背中を叩かれた。
めちゃくそ痛い…。
ふと坂の下を見た。
あれ?もしかして…。
健康坂を下りる途中の横の木の下に琴坂らしき人物を見つけた。
楽しそうに誰かと話しているようだ。
あっ…笑うんだ…可愛いじゃないか…。
相手は誰かは分からないが、変だな…嫉妬してしまっている自分がいた。
俺はその感情を流す意味で缶コーヒーの残りを一気に飲んだ。
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