崩壊と同盟

 俺達がやったゲームは、ジャンルで言えば確かにパーティーゲームの類に入る。しかしそれを更に分類すると、このゲームは友情崩壊リアルファイトゲーになる。どうしてこんなゲームを選んだのかと言われても『何となく』としか言えないが、今思えば大いにやらかしたのではないだろうか。

 別にこのゲームだけを所有している訳ではない。選ぼうと思えば別の、只々盛り上がるゲームだって選べた。しかし俺の感覚がそれを赦さなかった。何故かはやはり分からない。何度も言うがこの程度の選択の是非は一々考えてはいないのだ。

 だが―――



「あー! 御影先輩ずるい! 何でそんな……後一マスだったのにいいいいいい!」

「萌、邪魔。首藤君を叩けない」

「ええ、俺一点狙いかよ……おら、喰らえ!」

「やあああああああああ! お兄ちゃん最低! 可愛い妹に何てことするのッ?」

「キャラ変わってんぞ天奈。お前そんな事言う奴じゃねえだろ―――っとお!」

「あああああああ先輩も酷いですううう…………私からアイテムを取るなんて~」

「この世は弱肉強食だ……行きたくば弱きを喰らえ、萌。そして俺の所まで上って……っておい馬鹿! 何してんだお前!」

「叩きのめすって、言った筈だけど」



 そのせいで俺の家は地獄絵図と化した。騙し騙され、喰らい喰らわれ、手を組み、裏切り、また手を組む。

 先に挙げた通りのリアルファイトを俺達がしないのは、プレイメンバーの比率が女子の方に偏り過ぎているのが原因だろう。実際は偏り過ぎている処の話ではなく、男子が俺一人だけだが。それでもどれだけ腹が立とうと俺は女性を殴ったりはしない。

 殆どの場合においてこの比率の偏りは不利益を被るが、今回の場合はメリットしかもたらしていない。リアルファイトなんて起きようがないのだから。

「あーもうキレた! これでも喰らえクソ兄貴!」

「…………おおおおおおおいッ? な、お前さっきの奴……おい、俺には使わないって約束だったろ!」

「あれは嘘よ」

「うわああああああああああああ!」

 傍から見れば平和極まりないこの光景。俺が股を開いて座り、その内側に天奈がちょこんと座り、後方のソファに萌と由利。男一人に女三人。約一名妹とはいえ、このハーレム的な状況は、普段の俺なら滅茶苦茶喜んでいる所だが、今はどうでもいい。

 このゲームに手を付けてから全力でお互いを殺し合っているせいで、気にしている暇がないと言った方が正しいだろうか。特に由利は、ゲーム開始から俺の事を狙っているから非常に怖い。何でもかんでも俺にふっかけてくるから動きづらい事この上無い。これに加えて俺は現在一位だから、萌と天奈の二人も捌かなくてはならない。

 一位が狙われるのは仕方ない事とは言え、王座を守り切れる気がしない。というか守り切れなかった。

 天奈の使ったアイテムによって、俺の所持金は全額掠め取られた。王座から一転、奈落の底まで転落した訳だ。

「…………バランスイカれてんなこのゲーム」

「私もそれ思いましたッ。アイテムの効果が極端ですよね!」

「でもだからこそ一発逆転が出来る! へっへーん。これで私が一位だもんねッ」

「……首藤君を叩きのめす」

「待て、待て待て待て! 一文無しの俺に喧嘩吹っ掛けるってお前悪趣味すぎるだろッ。死体蹴りだぞそれ! マナーが悪い!」

「…………じゃあ、誰を狙えばいいの」

「いや他の奴狙えよ! 何、俺以外狙えないみたいな言い方ッ」

 こういうパーティーゲームは全員を均等に狙ってこそ盛り上がる訳で……と言っても、やはり一位を取る事が目的な以上、ある程度は偏りが生まれる訳だが。最下位の俺を狙うのは違うだろう。得が無い。

「仕方ない……か」

 流石に死体蹴りの趣味は無いのか、由利は渋々俺から狙いを外した。この分だと俺が少しでもお金を手に入れようものなら直ぐにでも狙ってきそうだが、安心するがいい。要は天奈みたいに一度で大量の金を手に入れて逃げればいいのだ。不幸中の幸いかアイテムは残っているので、どうにか一発逆転をした後にこの『ひとっとびヘリコプター』を使って逃げれば勝機はある。

 心配する事があるとすれば、このアイテムにはランダム性があり、下手すると横に一マス飛ぶだけで終了とかもあり得る。

「最下位になっといてあれなんだが、実はこのゲーム、シビアな調整がされている神ゲーかもしれん。どんなタイミングでも一発逆転が狙えるなんて早々ないぞ」

「きっと現実の厳しさに寄せてるんですよ」

「高校生が言う事じゃねえと思うぞそれ」

 それを言える高校生がいるとしたら、多分それは高校とは言えないではないだろうか。

 同じ高校生の俺が言うのも何だが、年齢こそ違うものの、高校生という奴は基本的におちゃらけている。全員が全員そうとは言わないが、俺の出会ってきた奴らは基本的にそんな感じだった。悪い言い方をすれば、中学生の延長だった。

「しかしまあ、あれだな。やっぱり最大人数でやると盛り上がるな」

「うん。私こんなに楽しいのは初めてかも。ねえお兄 ちゃん、また今度全員で遊ぼうね!」

「ん。そうだな。全員で……またいつか遊ぶか」

 今度こそ、誰も死なせない。原因は他でもない俺にあるとするなら、要は曰く付きの場所に行かなきゃいいのだ。そうだ、俺が居なければ何も起こらない。部長が守っていただけなのかもしれないが、それを抜きにしても萌達は今まで生き残ってきた。藤浪達も、俺と関わるまでは生きていた。

 だから少し悲しくはあるのだが、これから萌達とフィールドワークをするのは控えよう。それが二人の為でもある。

「あ、待って。今度は碧花さんも一緒に!」

「碧花ぁ?」 

「うん。私一緒にやりたい!」 

 我が妹と碧花は、家に一時預かりされた事で多少は気心が知れている。俺と三人なら、多分快諾してくれるだろう。

 問題は萌と由利だ。二人は碧花を恐れている。真偽はともかく、自分達を殺そうとしてきた人物とゲームなんてしたくあるまい。

 しかし天奈がそんな事情を知る筈は無いので、この発言に悪意はない。

「……今度聞いておくわ」

「よろしくねー」 

 嘘を吐くのは心苦しいが、妹に悪意は無いのだ。なら真実は教えられないし、そもそもこの話をするにはオミカドサマから説明を始めなきゃならない。

 面倒だ。

「……にしても、ここからどう切り返したら俺は一位に返り咲けるんだ?」

 雑談をしている内に萌が埋蔵金マスを発見して、一位へ。由利がそれを奪取せんと行動しようとした矢先に、次行動者である天奈が『瓶棒クジ』のルーレットを外した事で狙いが外れ、由利は俺と同じ一文無しに。何故か三位だが、実質最下位だ。

「……なあ由利。ここで俺らが争っても仕方ないと思うんだわ。ここいらで一度手を組まないか?」

「そんなシステム、ない」

「盤外戦術だ。貧民同盟を組もうじゃねえか、なあ?」

「……ハメたら許さないから」

「んな事するかよ」









 クリスマス会の開始まで、後五時間。

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