ずっとサヨウナラ

 準備が出来ているとの言葉は嘘では無かった。碧花に案内された先では確かに魂を吹き込む準備が整っていた。


 いたが……俺は代わりに用意された人形に強烈な違和感を覚えていた。或いは、強烈な異臭とでも言った方が良いだろうか。それは布でぐるぐる巻きにされているものの、大きさから言って、成人男性一人分。顔も爪先も碌に見えないが、一体これは……『誰』なのだろうか。


「おい。まさかこれ……お前が?」


「そんな訳無いだろ。この世界に居るのは何も私と君だけじゃないんだ。だからどうやって調達したかは……私も知らない。これが誰なのかもね。でも気にしてる場合じゃないだろう? 今から蝋人形を作るのは技術の無い私達には無理だしね」


「それは……そうかもしれないが」


「あまりこんな事は言いたくないけど、死体は『物』だ。そんなものを一々気に掛けていたら、生者を助けられなくなる。二人が『物』になる前に助けるのが、私達の目指すべき現実の筈だ」


 碧花みたいに、そうやって簡単に割り切る事が出来たら苦労はしない。たとえ法律上そうだったとしても、元々は人だったのだから。しかし、彼女の言う事にも一理あるのは事実だ。死体を使う事を躊躇していては、二人を助ける事が出来ない。


 俺が殺した訳ではないのだ。顔も見えていないし、惨たらしい箇所が見えている訳でもない。今は……気にしないでおこう。


「あ、水場はこれね」


 雑に開いた窪みに水が溜まっている。取ってつけた様な水場としか思えないのだが、元々あったのだろう。これを短時間で掘るには超人的な筋力が必要になる。もしくは二十二世紀に開発されるかもしれない秘密っぽい道具が必要だ。



―――しかしよく見つけたな。



 超近距離でようやく水場を視認出来る俺がおかしいのかもしれないが、これでも視力は平均以上ある。俺でこれなのだから、碧花はどれだけの視力を……いや、もう視力とかそういう問題では無い気もするが。多分これを見つけるくらいだったら、どっかから桶持ってきて、そこに水を汲んだ方が早い気がする。見つかったもんは仕方がないので、これを使うのだが。


「で、テレビの代わりは何処にあるんだ?」


 水場と人形が用意出来たら、後はテレビと隠れ場所を用意しなければならない。隠れ場所はさっきの小屋でも良いし、廃旅館でも構わないから、手間をかける必要は無いだろう。俺は視界を隅々まで見渡して、テレビの代わりと思わしきものを探した。


 …………辺り一面、草が生い茂っていた。


「……えーと?」


「ん、どうしたの?」


「いや、テレビの代わりだよ代わり。ひょっとしてお前が持ってるのか?」


 悪意も無ければ他意もない。何気なく聞いたつもりだったのに、突然碧花の表情が険しくなった。聞いてはいけない事を聞いてしまったとは思えない。内容が内容である。テレビの代用品が何処にあるのかという話が、一体何処の誰の琴線に触れるというのだ。 


「それを話す前に、まずは君に、テレビがそもそもどんな役割を持っていたのかを話した方がいいだろうね」


「いや、別にいいんだけど」


 時間の無駄になる予感しかしないので即答で断ったが、それに応じるかの如く、彼女もまた即答で切り返してきた。


「駄目だ。これを話しておかないと、君は開幕でこんな事を言いだす。『何でそうなる?』って」


「は? どういう事だよ。そんな事絶対言わねえし」


「言う」


「言わねえ」


「漫才してる場合じゃないんだ。とにかく話すからね」


「いや、だからいいって―――」


 俺も漫才などする気は更々無いから何度も拒否しているのだが、今度の拒否は、碧花にとってはしつこく漫才しようと食い下がってきた様に思えたのかもしれない。「黙って」と言われ、大人しく口を閉ざした。


 まだマジ切れしていないだけマシだが、これはこれで恐ろしい。


「テレビは……というより、これは水場にも言える事なんだけれど。君も良く言われてるから知ってるんじゃないかな。水場は霊が集まりやすいって。テレビの点けっぱなしについても同じ事が言えてね、要は霊道みたいなものだよ。あっちとこっちの扉を作ってやるんだ。まあ今は砂嵐なんて拝めそうもないけれど、役割さえ判明してしまえば、幾らでも代用が利く」


「……ああ、成程! 合わせ鏡かッ!」


「真っ先にそれを考えた。けど鏡なんて持ってないし、探しに行く訳にもいかないだろう? だから―――」



 


 碧花の指が、真っ直ぐ俺を捉えた。




「――――――え? 俺?」


 ここでようやく、俺は彼女の発言の真意を知った。確かに、こんな事を言われたら『何でそうなる?』とも言いたくなる。俺の性格を知り尽くしている彼女だからこそ、出来る未来予知だったと言えるだろう。ただ、そこには一つの誤算があった。


「……何でそうなるんだ?」


 説明されようとされまいと、俺がテレビの代用品になるという発想が理解出来ないので、結局首を傾げてしまうという事だ。


「え、ごめん、マジ悪い。え、何で? 何で俺? 俺が霊道なの?」


「ああいや、違う。君じゃない。君の持ち物の事を言ってるんだ」


「持ち物ぉ?」


「君の携帯だよ。それを代用する」


「…………どういう事だよ」


 それこそ意味が分からない。俺が代用品になるという発想は、聞いた直後こそ意味が分からなかったが、しかしよく考えてみれば、霊道という意味では俺以上の適任は居ないのだ。だって俺は『首狩り族』。俺の超絶的不運が霊道に集まった幽霊に引き起こされているならという仮定付きだが、それなら俺以上の適任は居ない(碧花は俺の首狩り族を嘘っぱちだと言っているので、この理屈で行くと矛盾が生じてしまうが)。


 だが携帯ばかりは、どうやって考えても、分からない。曰く付きの携帯なんぞ購入した覚えはない。


「とある人に聞いたよ。君の携帯、一回憑かれたんだってね」


「は? いつ?」


 碧花は顔を顰めながら、恨めしそうな調子で言った。


「君とプールでデートした時。メリイさんに」


 その単語……特に後半の名前を聞いた瞬間、俺の表情が凍り付いた。二度と聞く筈がないと思っていた名前をこんな所で、しかも碧花の口から聞く事になるとは。あれに俺は相当追い詰められたし。家に帰っても幻聴を聞いてしまうくらい恐怖した。


 たまたま萌と部長が居たから良かったが、俺一人だったらどうなっていたか、想像したくもない。


「一度憑かれたなら十分だ。代用品としては十分な性能を発揮する。さ、それを貸してくれ」


「お、おう」


 聞きたい事はあるが、気にしている場合でも無いだろう。説明を拒否するくらい俺は焦っているのだ。電源すら憑かないポンコツを碧花に投げ渡すと、彼女は「ありがとう」と言って、水場から少し距離を話した所に置いた。


 テレビと比較すると、『準備をした』感覚が薄い。不法投棄の方がまだ信じられそうだ。


「これで準備はオーケーだ。人形の方は、もう吹き込む準備は出来てる。そして一人かくれんぼ―――じゃない、緋々巡りの開始も私がやろう。君は先に隠れ場所に行っていてくれ」


「さっきの小屋か?」


「いいや、ここから後ろに八三歩、右に一二〇歩、左に三九歩歩いた所に納屋があった。そこに隠れてくれ」


「歩数で示されて分かる訳無いだろ! 大体その歩数で絶対行けるって保障はないし!」


「それこそあり得ないな。ちゃんと君の歩幅で計算したから間違ってない。早く行って。行けなかったら地面に潜ってくれ」


「モグラじゃねえんだよ俺はッ」


 言いつつも、漫才に時間を掛けている暇は無い。口を吐けば文句しか出てこなさそうだったので、大人しく口を噤み、俺は移動を開始した。碧花を再び信じたのである。俺の歩幅で計算したと言っていたので、変に小股になったり大股になったりする必要は無いだろう。無いと信じたい。そうあって欲しい。


 脳内で歩数を数える事に集中し、全力で走る。一歩でもズレたら見つからないなんて事は無いと信じたいが、この視界の酷さだ。俺ならあり得る。なので絶対に数え間違いはしない。


 背後八三、右一二〇、左三九。東とか西とか方角的な言い方をしなかったのは、俺の『変な所で細かい事が気になる』性格を鑑みての事だろう。元々そんなつもりはないが、碧花には足を向けて寝られない。


「……マジであったよ」


 信じるしか選択肢が無かったから動いたまでで、その実は半信半疑だった。結果は俺の視界が映し出した光景通り、物さえなければ人が数人入れそうな納屋が佇んでいた。扉は少し立て付けが悪く、力を籠めないと開かなかったが、隠れ場所としては十分この上無い。


「あいつ、いつ見つけたんだこんなの」


 疑問を感じている訳ではないし、さしたる意味もない。不意に口を吐いて出た独り言だ。昔から碧花は探し物が上手かった。それだけでこの納屋の存在を知っている理由は十分だろう。


 内側から扉(引き戸である)を閉めようとすると外側以上に力を籠めなければならなかった。三〇秒かけて完全に閉めたが、指が痛い。こんな調子で本当に大丈夫か。



 さて。碧花が来るのを待とうか。



 そう呑気に構えていたが、既にこの時から、最終決戦の火蓋は切って落とされていた。












 






「これで二人きりだね。女同士、腹を割って話そうじゃないか―――オミカドサマ」


 私は目を瞑りながら、虚空に向かってそう語りかけた。すると間もなく、敵意の入り混じった声が、脳裏に響いた。


「カリヤは私のアソビ玩具だよ」


「違う。私の初恋相手だ」


「カリヤを返して」


「お前の物じゃない」


「アナタの物でもない」


「でも私は狩也君のモノだ。この身体も、心も、彼に征服されたがっている。あらゆる意味で彼に染まりたがっている」


 話は平行線のままだ。どちらもワガママで、どちらも譲るつもりは更々ない。一時は共に協力した仲だったとしても。昨日の敵は今日の友かもしれないが、今日の友が明日も友とは限らない。二人の関係は、その状態にあった。


「そもそも、私が最初に好きになったんだ。彼の子供が欲しいなんて、そんな言葉じゃ生温いくらい好きになったのは、私が最初だ。後から好きになったお前が分捕ろうなんて、無礼だとは思わないかな」


「オモワナイ。だってカミサマだもん」


「そうか。なら尚の事無礼だな。今は神秘主義の蔓延る世界じゃない。カミサマが人の営みに口を出すなよ」


「最初にヒトリカクレンボを教えたのは私だよ」


「その点については感謝してるさ。お蔭で彼に出会えた。でも、それとこれとは話が全く違う―――今から遊び相手を作ってやるから、大人しく封印されろ」


 十秒経った。私は目を開け、水場に沈めた死体にナイフを突き立てた。緋々巡りをしている筈なのに、この懐かしい気分は何なんだろうね。人を刺す事に一々興奮を覚える様な変態になった覚えは無いんだけどな。


 肉を突き刺す感触なんて、気持ち悪いだけだし。


「次はノウミが鬼だから」


 それだけ言ってナイフを手放し、転進。狩也君に案内した場所へと走り出した。彼はちゃんと辿り着けているだろうか。途中で迷っていたら見つけられる筈だけど、気配も感じないし、到着したのかな?


「私が居なかったら、シンデタ癖に」


「君の功績は狩也君と出会わせてくれた事だけだ。恩着せがましい奴は嫌いだから、死ね」


 納屋を見つけた。扉は締まっているけれど、若干歪んでいる処から察するに、もう入っているらしい。力ずくで開けたみたいだね。お蔭で更に立て付けが悪くなってる。


 さて―――














 扉の凄まじい音と共に、碧花が入ってきた。


「お待たせ」


「もう魂を入れたのか?」


「うん。だからここで少しかくれんぼだ。その間はこの後の段取りを確認しようか。これ以降は、一人かくれんぼとは違うからね」


 そう。それが緋々巡りと一人かくれんぼとの違い。始め方が同じだけであって、両者には『儀式』か『遊び』かの違いがある。ここを勘違いすると、多分取り返しがつかない。


「この後どうするんだっけか」


「そう複雑じゃない。魂を吹き込んだ人形を見つけたら『オミカドサマ オミカドサマ おいでください おいでください ヒヒイロコガネが参ります』と言うんだ」


「ヒヒイロコガネ?」


「私にもよく分からないけれど、どうやら遊び相手の事を指すらしいね。この場合は人形の事。そうしたら人形に―――これを」


 碧花は懐からお札を取り出すと、それをそっと俺の掌の上に乗せた。


「これを人形の胸に貼って、水場に突き落とす」


「……って事は、桶とかで単に水を張るんじゃ、駄目なんだな?」


「一人かくれんぼとの差異だね。それでその次は―――あ、終わりだ」


「…………へ?」


 まさかの緋々巡り全工程終了の事実に、俺は肩透かしを食らった気分になった。拍子抜けとまではいかないが、随分儀式っぽくない儀式だ。俺の想像する儀式は、もっとこう供物とかそういうのを用意したり、陰陽師が書いてそうな陣でも書いてなんやかんやするものだったので……


 前言撤回。拍子抜けした。


「それで終わりなのか? いやいや嘘だろ。確かあの本にはもっと長ったらしい手順が書いてあったぞ? そんな最後の二行だけ切り抜いたみたいな手順があってたまるかよ」


「随分鋭いね。そうだよ、君がやる手順は最後の仕上げみたいなものだ。本当は魂を吹き込んだ後、もしくは前に、長ったらしい下準備があった」


「それはお前がやったのか?」


「いいや、素人には出来そうも無かったからなのか、専門家がやってくれてたよ―――もう分かるだろう?」



 ……ああ。部長か。



 どっちかは知らないが、どっちだっていい。どうして二人共一貫して姿を見せないのか謎だが、準備してくれたと言うなら非常に助かる。出来ればそのまま萌と由利を救出してくれたらもっと助かるのだが、どうしてそこまではやってくれないのだろうか。


 特に萌を溺愛していたクオン部長なら、俺と同じくらい必死に助け出そうとする筈だが。


―――まあいいや。


 助けられない事情があるのだろう。例えば西園寺部長ならオミカドサマに狙われてしまうとか、クオン部長なら―――いや、あっちは分からない。


 いずれにしても、二人が出来ないと言うなら俺がやるしかない。そこまで準備してくれたのだ。無事に成功させて、二人を助けるとしよう。


「まだ隠れた方がいいか?」


「―――いや、もう十分だと思うよ。そろそろ行くかい?」


「ああ。ここまで来たら、もう一秒でも早く終わらせないとな!」


 俺は勢いよく立ち上がり、有無を言わさず碧花の手を引っ張った。


「サポート、頼んだぞ」





















 失敗は許されない。その言葉を何度考え、何度発言し、何度見掛けた事か。その度に俺は成功し、失敗し、失敗した。許されないとは思いつつも、それでも結局失敗する時はしてしまうのが現実であり、人間というものだ。


 だが、今夜ばかりは違う。失敗は許されるとか許されないとかではなく、死を意味する。俺達ではなく、囚われた二人の。


 ここまで来てオミカドサマが何の抵抗も見せないのが不思議で仕方ないが、そんなオミカドサマでも自分を封印する儀式が完了寸前とあっては、妨害しに来るのが道理というものだ。だから失敗する可能性は、通常よりも高いと考えた方が良い。


 だが、成功する。


 そうしなければ二人を助けられないのなら、そうするしかない。この一連の事件、どうも引っかかる事ばかりあるのは否めないが、取り敢えず終わらせるべきだ。今やるべき仕事を放って次に取り掛かるべき仕事を考える社会人など居ないだろう。俺ももうすぐ社会人になるのだから、まずは今やるべき事に取り掛かるべきだ。


 先程の水場に戻ってきたが、曰く沈めた筈の人形が綺麗さっぱり居なくなっている。魂を吹き込む事には成功している様だ。ここまでは順調と安心したのも束の間、人形の所在が分からず、俺は人知れず焦った。


―――そもそもあの状態で動けるのか?


 全身をぐるぐる巻きにされていたら、流石に動けないだろう。人形が人に近いなら猶更だ。それが居なくなっているという事は……這いずって移動したとしか考えられない。


「狩也君」


「ん? 見つかったか?」


「そうじゃなくて、地面」


 碧花に言われて地面を詳しく観察すると、何かが這いずった痕が残っている事に気が付いた。それはずっと奥の方まで続いており、幅は丁度、成人男性一人分。


 痕跡を注視しながらゆっくり辿っていくと、茶色く濁った白い物体が視界の端に映り込んだ。


「あ!」


 人形だ。蛞蝓みたいな這い方で、少しずつ、少しずつ。俺達から距離を取ろうと逃げていく。ナイフが見当たらないが、まだ胸に刺さっているのだろうか。




「オミカドサマ オミカドサマ おいでください おいでください ヒヒイロコガネが参ります」




 一息ついてから、俺は膝を落とした。 


「手伝ってくれ」


「分かった」


 成人男性を一人で持ち上げる事は出来ない。担架でも運ぶみたいに、俺は碧花と協力して、全身をぐるぐる巻きにされたその人形を持ち上げた。己の身体が空中に上がったと分かるや否や、人形はじたばたと暴れて尋常ではない抵抗をしてきたが、一体どういう縛り方をされているのか、布は一切解けなかったし、俺達も人形を落とす事がないまま、水場まで戻ってきた。


「良し。一旦ここで下ろそう」


 人形の胸にお札を張るべく、俺達は水場の手前で人形を置く。それから半身を持ち上げて向きを変え、ぐるぐる巻きになった人形を仰向けにした。


「えーと……胸か」


 ナイフが刺さったままだったお陰で、目印の役割を果たしてくれた。こういうのは正確な位置が大事(だと勝手に思っている)なので、慎重にやらなくては。俺はナイフを引き抜くと同時に、傷口に遭わせてお札を貼り付けた。


 誰がしてくれたかは知らないが、顔までちゃんと巻いてくれたのは、実はかなり助かっているかもしれない。もし顔が見えていたらここまで無情に、そして円滑に進める事は出来なかった。多分躊躇さえしていた。可愛い後輩と同輩の命が懸かっているのにも拘らず。


―――ごめんなさい。


 心の中で謝罪をして、俺達は再び人形を持ち上げ、水場に放り込もうと―――





「マッテ」





 それに待ったをかけたのはオレの脳裏から響く声。しかし俺の声にしては幼く、俺の声にしては音が高かった。


「カリヤ、やめて」


 その呼び方を俺は知っている。俺の事をそんな風に呼ぶカミサマは一人しか居ない。


―――オミカドサマ?


 心の中でそう尋ねる。傍から見れば俺は不自然に動きが止まっているのだが、碧花は何も言わず、俺の方を見ていた。


「お願いだから、ヤメテ。カリヤ、ねえ」


―――やめないよ、俺は。二人を助ける為に、お前を封印する。


「嫌だ。私、もっとカリヤと遊びたいの」


―――俺はお前と遊びたくないし、今までだって遊んだ事もない。


「私が消えたら、とんでもない事になる」


―――どんな事件も、二人が死ぬよりはマシだ。


  話は平行線のままだ。どちらもワガママで、どちらも譲るつもりは更々ない。『二人を返す』とさえ言って、そして実行してくれたのならともかく、それすらしない癖に保身を試みるとは愚か極まれり、である。


 昨日の敵は今日の友なんて言葉があるが、そんなのあり得ない。一旦敵に回ったら最後まで敵だ。『敵』という言葉は、それくらいの絶対性がある。友達になれたなら、そいつはそもそも初めから敵じゃなかったのだ。俺とオミカドサマの関係は、そんな状態にあった。




「…………さようなら、オミカドサマ。金輪際、俺と碧花の前に―――その顔を見せるな!」




 俺達は呼吸を合わせて、遊び相手を『扉』へと放り込んだ。




  











「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いやあああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 水面を通じてこの世のものとは思えぬ絶叫が響き渡り。







 戦いの決着を知らせるかの様に、霧消した。



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