漢と漢の戦い



 知り合いを使っても良い。その言葉の本当の意味が分かるだろうか。いや、分からなければおかしい。末逆部長は知り合いを使うの禁止、俺はオーケー。全く当たり前の話になるが、これはハンデなのである。



 言い換えると、俺はハンデ無しではあの部長と渡り合えないという事である。



 まあ仕方ない。『首狩り族』という呪いもとい超絶的不運はそれくらいのマイナス要素なのである。と、ここまでは誰にでも見えているが、俺は天才なので、見えていない部分も語る事が出来る。分かりやすく図に表すと、こういう事だ。



 ハンデを使わないと勝負にならない→ハンデがあってようやく勝負になる→ハンデとは知り合い使用の可否→勝負とは知り合いではない人とツーショットする事→つまりナンパ力。



 俺は試されている。今まで彼女を作る為にしてきた自分磨きに、果たして意味があったのか無かったのか。碧花と共に歩んできた十数年間が試されるのだ。これの結果次第で、碧花を守れるか否か、それと俺の今までの努力が無駄だったか否かが分かる。


 ハンデは使う。使うが、今すぐにハンデ分の差を埋めなくてもいいだろう。問題はハンデにより埋められていない部分……即ち実力。たった二日間の内に、俺は何十人以上と写真を撮らねばならないのだ。どうしてそう思うかって、相手が映画同好会なのだから、当然の事だろう。


 奴等には映画という手口がある。今じゃあまり聞かない話だが、性格の悪い監督が女優に対して『映画に出させてやるから抱かせろ』とか。抱く部分が、奴らの場合ツーショットになる。映画のクオリティはどうあれ、映画に出たという事実は話のネタになる。学生の思い出という意味では、メリットと言う他ないだろう。どんな酷い思い出も、学生という前置きが付けば、『昔したヤンチャ』である。


「…………つってもなあ」


 映画同好会ずる過ぎないか? 面識がない相手でも、例えば映画関係の話に持ち込むのであればエキストラ云々を語れば乗っかってくれるだろうし、そうでなくてもあの男、脚本を勝手にすり替えたりと強引な所が目立つとはいえ、情熱は本物だ。だから部員もあんなについていく。


 何が言いたいのかっていうと、俺の視点だからさも悪者であるかの様に見えているが、普通の人から見れば只の好青年なのである。それがこの対決に影響するかと言われると、常人対常人なら影響しない。



 だが、俺は常人か? 



 認めたくないが、『首狩り族』のレッテルがある時点で、俺は常人ではない。つまり影響する。それも大いに。


―――どうしようかなあ。


 萌を頼るか……いや、頼りたくないが、頼ろう。すっかり忘れる所だったが、萌の父親の件も何とかしなければならないから、出来るだけ彼女とはベタベタしてないといけない。


 そこまで考えた所で、昼休み終了のチャイムが鳴った。そういえば昼休みだった。午前中は保健室で那峰先輩にベタベタしていたが、午後は……流石に授業、受けようか。別に体調が悪い訳でもないし。行くだけ行ってみよう。


 俺という存在そのものが授業を妨害しかねないなら、その時は仕方ない。また那峰先輩と戯れていよう。



 いやあ~参ったなあ!














 俺の思惑は悉く外れた。保健室に行く事は無かったが、授業の妨害になる(俺が居るなら授業ボイコットするとか何とか言って泣き出した女子まで居た)という事で、まさかの別室授業。しかもプリントを解くだけ。つまんねえ。


 六時限目も同じだったので、終いには俺の気が狂った。俺らしくもなく学習面で脳が冴え渡り、授業が終了する前に、全ての課題をやり切ってしまった。「終わったら随時取りに来い」と言われたが、面倒なので取りに行かない。後はサボる。


「あーツーショットどうしようかなあ」


 そもそも応じてくれるかはさておき、全員が応じてくれる前提なら、確実そうなのは萌、由利、天奈……那峰先輩は良く分からないが入れるか。それでも四人だし、正直かなり辛い。ハンデとして機能するかどうかがそもそも怪しい。


 まあそれに文句を言っても、「友達作ろうとしなかったお前が悪いじゃん」で済む話なので、考えても仕方がない。今考えるべきは、どうやったらツーショットを撮れるかだ。





 その1。校門で出待ちする。



 不審者として通報されかねない。駄目。




 その2。映り込ませる形で自撮りする事でツーショットと言い張る。



 判定員が誰であれ、ツーショットとは思われないだろう。駄目。




 その3。碧花一人で十数人分を補う。



 物理的に不可能。駄目。





 策が尽きた。


「…………あんまり、やりたくないんだけどなあ」


 厳密に言うと策は尽きたが、万策が尽きた訳ではない。方法は一つだけある。ただしそれは俺が絶対に取りたくない方法でもある。人を傷つけてしまうかもしれないではなく、この方法は絶対に傷つける事になる。だからやりたくない、気が進まない。


 もう誰にも傷ついて欲しくない。 


「…………………………」


 意味も無く、メッセージアプリを眺める。出会い系じゃあるまいし、知り合いしか目に映らないのだが。


「……あああああああ!」


 ある人物が目に映った事で、俺にはもう一人知り合いが居る事を思い出した。その知り合いが居る場所なら、女性の一人や二人くらい絶対に居るだろう。しかも俺の異名を知らない人が。懸念点があるとすれば、萌の父親が俺の知らない内に萌と接触してくる可能性だが―――俺の当たろうとしている相手が相手だ。問題は自ずと解決されるだろう。


 まさか俺の不運に助けられるなんて思ってもみなかった。他人の『首』は狩る癖に、俺の首は皮一枚で繫げようとするのか。一周回って悪趣味が過ぎる。



 運の良い事に丁度チャイムが鳴ったので、早速俺は誘いをかける事にした。



 電話で。


「…………あ、もしもし。萌か?」


「先輩? どうかしましたか?」


 彼女の言いたい事も分かる。同じ学校に居ながら電話を掛けてくるなんてよっぽどの緊急事態だ。もしくは俺が命を狙われているかだが、生憎と怪異以外には一度も狙われた事が無い。それはそうと、こうして電話を掛けると、如何に碧花の応答速度が速いかが分かる。常に待機でもしているかのようではないか。


「いや、実はな。お前に会わせたい人が居るんだ。俺の首狩り族を知ってるなら、喜べるんじゃないのか?」


「え?」


「まず当然の事実として、俺と関わった相手は殆どの場合死んでいる。もしくは精神が壊れたか。例外はお前達くらいなものだが、実はもう一人居るんだ。死んでもいない、精神が壊れた訳でもない、五体満足の人がな。ただ……記憶喪失した上に、喪失前と性格が変わっただけで」


 俺の言わんとする事がようやくわかった様だ。萌の声音が、一気に上がった。


「え!? 会わせてくれるんですか!」


「クオン部長が居なくなった今、由利とお前はオカルト部としての活動を頑張らなくちゃいけない。俺からの餞別だ。有難く受け取れ」


「はい! じゃあ先輩、校門で待っててくれませんかッ? 私、直ぐに行きますから!」


 電話で話す俺には分からないが、傍から見た萌の姿はどう映っているのだろう。まるで彼氏とのデートに浮かれる彼女の様ではないか?


 もしもそうだったのなら、完璧だ。萌の親父も俺達が真のカップルだと信じて疑わないだろう。

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