第1話 日常
4限目の終わりを伝えるチャイムが聞こえると、古典の教師は日直にさっさと号令をさせると教室を出て行ってしまった。
分からないことが沢山あるから質問したかったのに……冴子は家での自習時間をもう少し取らなければならないなと思った。
どうして入院なんてしてしまったんだろう。いくら急いでいたからと言って、交通事故にあってしまったら意味がないじゃないの。
冴子は無意識に、質問のために抱えていた教科書を少しだけ強く抱きしめていた。
自分の不注意のせいで交通事故にあってしまった冴子はその事故による長い入院期間のお陰で高校の入学式に出ることも出来ず、退院出来たと思えば、中学校時代よりも難易度が格段に上がった授業についていくことすら出来ない状況となっていた。
それに冴子が入院している内に、あんなに一緒だったはずの瑠奈と深雪との思い出は二人から欠片ひとつ残ることなく消えており、そのおかげで冴子は妄言癖のある危ない奴としてクラスから孤立することとなった。
今更後悔しても、もうどうにも出来ない段階に来てしまっていたので、冴子は魔法少女だった頃の思い出を胸にしまい込んで生きることを決めていた。その思い出の中でだけは、孤独ではないから。
そういえば今日は確か、メロンパンが安い日だったはずだから早めに買いに行かないと。冴子は質問のために抱えていた教科書を机の上に置き、購買へと向かった。
冴子はどうにか過酷な争奪戦を制し、メロンパンを獲得することが出来た。
今は中庭のベンチで戦利品であるメロンパンを食べて、ただ体を動かすためのエネルギーを補給している。
お目当ての物が買えて少しだけ嬉しい。冴子の心が少しだけ満たされた。メロンパンから得られるエネルギーではなく、そういった、小さな喜びこそが冴子が生きる為に必要なことだった。
「今日のメロンパンは、いつもよりしょっぱくないや」
冴子のつぶやきは、他人に聞かれることもなく、予鈴でかき消された。
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