第4話 システム

「んん…」


 そっか、寝てたんだ俺…。

 起き上がろうとして手を伸ばすと、なにか柔らかい感触がした。手に吸い付くような、そんな感触。


「キミは意外と大胆なんだな」

「うわぁ!」


 慌てて距離をとった。


「キミに胸を揉まれるのは何度目だろうな」

「…二回だろ」

「いや、もっとだ」

「はぁ⁉︎」


 もしかして寝てる間にこの手が…⁉︎


「寝ている間はカウントしていないから安心しろ」

「じゃあ他にいつ触ったってんだよ!」

「さぁね。それよりほら、昨日の話の続きだ。こちらに座りたまえ」


 そう、華月さんは隣に座るように言ってきたので、俺はしぶしぶ従った。


「昨日、私が言ったことを覚えているか?」


 彼女は話を始めながら、煙草に火をつけた。


「あぁ、神様がこの世界を作ったって」

「そうだ。——単刀直入に言おう。この世界は神に管理されていて、キミはその神々に欺かれたんだ」

「…ぷっ、冗談はやめてくれよ」


 不覚にも笑ってしまった。

この人がこんな冗談を言うなんてな…。

そう思ったが、彼女は至って真剣な表情をしていた。曇りのない眼差しで、真っ直ぐに俺を…。


「…分かったよ。話を続けてくれ」

「この世界と人々は神に作られたんだ。キミの友人も、先生も、そして家族も。彼らは賢い機械のような存在なんだ。——キミ以外はね」

「じゃあ、俺の家族の…妹だって機械って言うのかよ!」

「そうだ」

「昨日まで一緒に笑って喋ってたんだぞ!その笑顔も、ニセモノだって言うのかよ!」

「あぁ。ただのシステムの一部だよ」


 溢れ出す涙を抑えることが出来なかった。

今までの俺の時間を、感情を、全て否定されたような気分だった。

 そんな俺の背中に、彼女は優しく手を当てた。


「キミのお母さんはどんな人だったんだい?」

「…優しかった。いつも怒られてばっかだったけど、俺が泣いてるときは抱きしめて慰めてくれた。俺はあの笑顔にいっつも救われてたんだ……。なのに、なのに、どうして顔が思い出せないんだ…」


 いつもそばにいて、微笑んでくれていたはずなのに、頭に浮かぶのは違う女性の姿だった。

母さんと違って、細身で高身長の女性が、幼い俺を抱きかかえて話しかけてくれている姿。


「俺の頭までおかしくなっちまったのかよ…!」

「そんなことはないさ…」


 優しく抱きしめてくれる彼女から伝わる体温は、とても心地が良かったが、それとは裏腹に彼女は何故か寂しそうな表情を浮かべているような気がした。


「今度こそ、助けてやるからな…」

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