第5話 二本の軸

「なぁ、俺たちは監視者とやらからいつまで逃げないといけないんだ?」

「そうだなぁ…」


 華月さんは腕時計を確認するが、俺にはそれが意味のある行動だとは思えなかった。


「まだ十四時なのか…」

「なに言ってんだよ。こんなにも暗いのに、今が昼なワケないだろ」

「自分のスマホで確認してみるんだな」


 絶対に華月さんの時計ズレてるだろ…。

そんなことを思いながら、スマホの画面に映る時計を確認すると、それは七時を示していた。

 この薄暗い景色から予想されるものや、華月さんの言う時間とは全く違っていた。


「七時なのにどうしてこんなにも暗いんだよ…」

「それほどキミを排除することに必死なんだよ。無駄なシステムは停止させているんだろうな」

「…ふぅん」


 今更そんなことで驚いてるような暇はねぇよな。

絶対に俺は逃げ切ってやるんだ。

そして必ず——!


「……あと、それの時間直しとけよ」

「いや、こいつはこのままで構わない。一応これも合っているからな」


 …俺のがズレてるのか?

別にいいか。あっても意味ないし。

 俺がスマホをポケットにしまうと、華月さんは立ち上がった。


「コンビニ、行くか?」

「またトイレか?」

「違っ……くもないけどもだな、朝食だよ朝食。要らないのなら来なくてもいいぞ?」

「…俺も行く」


 この階段、流石に降りるのは楽だよな…?


  ・  ・  ・


 いっっっしょうこんなところ来てやらねぇ!

 膝に手をついて息を整える。

 なんでコイツは余裕そうなんだよ。


「なんだ、もうバテたのか?男の子なのに、そんなにも体力が無いなんてショックだよ…」

「アンタの体力が並み外れてるだけだろ…!」


 一人でぴょんぴょん行きやがって。

ついて行く俺の気持ちにもなってくれ。


「子育てには体力は必須なんだよ」

「母親だったのかよ」

「あぁ、いたよ。とびっきり可愛くて、キミのように生意気な息子が一人ね…」

「そうか…」


 彼女の表情と発言から俺は全てを悟り、それ以上なにも言うことはなかった。

 どんな形であれ、家族を失うことはつらさは俺にも分かる。なにかあったら、俺がそばにいてやろう。

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