第3話 煙草

 しばらくして監視者が去ったあと、俺は溜まりに溜まった疑問を華月さんにぶつけた。


「俺を排除するってどういうことだよ…!」

「そうだな…こう言ったら分かりやすいかな。

——キミのことを殺しにきたんだ」

「なんでだよ!俺がなにかしたってのか!」

「いいや、なにもしていないさ。ただ、キミの存在がヤツらにとっては邪魔なんだ。だから私が救いにきたのさ、奈月くん」


 急にみんな消えたと思ったら、今度は俺を殺すヤツが現れて、この世界はどうなってんだよ…!

…あれ、でもおかしいぞ?こいつ、どうして…。


「ど、どうして俺の名前を…?」


 自分から名乗った覚えはないはずだが、もしかして俺のことを知っているヤツは他にもいるのか…?


「——キミは私の守るべき存在だ。知っていて当然だろう」


 答えになっていないような気がしたが、俺はなにも聞かなかった。いや、聞けなかった。

 みんなどこ行っちまったんだよ。

どうして俺がこんなことになったんだよ…!

 なにも考えられなくなった俺は、その場にしゃがみ込んだ。

 ——もう、楽になりたい…。


「……キミは、神を信じるか?」

「急にどうしたんだよ。ここにきて神頼みなんて言うんじゃないだろうな」

「いや、違うさ。それで、どっちなんだい?」

「…信じるワケないだろ」

「そうか…。もし私が、この世界は神によって創られた世界だと言ったらどうする?」

「別に、今更どうもしねぇよ。ただ、言うとしたら、その神様ってのはクソったれってことくらいだ」

「ふっ…。確かにその通りかもしれないな」


 微かに煙草の匂いが漂ってくる。

こいついつの間に煙草なんて吸ってたんだよ…。

 ふと見上げて目に入ったその姿を、何故か懐かしく感じた。


「煙草を吸う女性は嫌いかい?」

「人の自由だろ、それくらい…」

「優しいな。時に少年、キミは幸せだったか?」

「…あぁ、こんなことがなければな」

「そっか、よかった…っ」

「あ?なんか言ったか?——って、なんで泣いてるんだよ!」

「スマン、煙草が目に滲みてな……」


 そんなワケあるかよ…。煙草が目に滲みたくらいで、そんな幸せそうにして泣けるはずないだろ…。


  ・  ・  ・


 しばらく泣いたあと、華月さんは眠りについた。

——のはいいんだが、この状況は…!

肩なんか貸さないほうがよかったかもな。

これじゃ俺の身がもたないぞ…。

子どもみたいな顔して寝やがって。


「ふわぁ、俺もそろそろ限界だぁ…」


 華月さんにつられ、いつの間にか俺も、服に染み付いた仄かに香る煙草の匂いとともに眠りについていた。

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