第10話 はじめて人を殺した
人を初めて殺した。生きている間でなく死んでからってのも変だが。
でも、これは正当防衛だ。と、いうか、神様は人のうちに入らないよね。
誰あろうと僕を殺す権利はない。だってどこの馬の骨かもしれない家系を補充するために転生しろだなんて身勝手すぎるだろう。
しかも、女に成れって、冗談じゃない。だいいち、そんなの勇者じゃない。
僕は手近な神様を殺した。ちょうどいい刃物が届く範囲にあったのだ。
何でも勇者の通過儀礼であるらしく、転生先の指定やスキルやオプションアイテムの付与など相談に応じる部屋らしい。相談員とやらは、その手続きを省略して僕の属性を女に変えた。駆けるたびにひらひらした布が膝にまとわりつく。身体はしかたないとしても魂まで変えられちまったら今度こそ本当に僕は死ぬ。仕方なく剣で神様の胸を突いた。
僕は走っていた。逃げないと殺されちまう!
他にも裸足で逃げ出す人々がいた。
彼女たちは口々に言う。
「なんで僕たちが殺されないといけないんだ?」
僕は女の子の一人と鉢合わせた。
「ねぇ、君も男なの」
「いいえ、あたしは正真正銘の女よ。でも、あんなやつに殺されたくないよ!早くここから逃げないと!!」
彼女は僕のドレスを掴み、雲の隙間から飛び降りた。
……。
…………。
玄関の戸を開けると雨が降り始めていたようだ。
濡れてもいいと思った僕は外に出た。靴も履かず、ズボンの裾も捲り上げ、泥水で汚れようが知ったことではなかった。
後ろから追いかけてくる足音が聞こえる。
怖い。
捕まったら殺される。
振り向くとそこにあいつらがいた。目が合った気がした。
僕は走り出した。振り返っちゃダメだ。
「あっ」
何かを蹴っ飛ばして転んだ。立ち上がろうとするが、足を押さえてのたうち回るだけだった。
痛みがひどい。どうやら挫いてしまって走れそうになかった。
あいつらが追いついてきた。腕を引っ張られ、そのまま引きずられるようにして連れて行かれそうになる。
痛い、離せ、と声にならない声で叫ぶが、誰にも届いている様子がなかった。
助けて……誰か……母さん……
「ちょっと待ちなさい!」声のほうを振り向くと見知らぬおばさんがいた。「あんたたち何をしとるか! そいつから手を放さないかい!」
おばちゃんは、まるで近所のおじさんのように大柄だ。
「誰だ、おまえ」
「知らないなら教えてやるさね。私ゃ、女神だよ」
僕はその言葉を聞いた途端 力が抜けたように膝から崩れ落ちた もう、疲れたよ。
僕は目を瞑って、全てを諦めた。
「え?今なんて言いました?」聞き間違いかと思い、私は思わず問い返してしまった。相談所の部屋の中に、女神様がいた。
「ですから、今回の転生ではあなた方に一切関与しないことにしてください」「はいぃ!?そんなの許されるわけないじゃないですか!」
私は抗議の声を上げる。
だが、相談所の神様は私の方を睨むと「うるさいですよ。女神が相談に来ただけでも迷惑千万だというのに、その上、面倒まで押し付けるとは何事か」と言った。「いえその」と反論しようとするが、「黙れ」と怒られては口をつぐまざるを得ない。
女神様は続けて「相談員殿は今回の件に関しては当事者ではなく第三者です。故に、我々とは全く関わりがありません。これは業務上の決定事項だ」と一方的に告げた。確かに私がこの件に関与することはない。相談者が来た場合は対応するかもしれないが、それだって業務の範囲外である。
女神様に「どうぞ、頑張ってください」と言われ、送り出されるだけである。
私はその日以来 この相談所に足を運ぶことは無くなった。
やっぱり駄女神ポジが私にはお似合いです。
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