第9話 相談員の本意

駄女神が奔走している間に事件が起こった。

「本当に、お子さんは必要だったのですか?」

相談員が詰め寄った。美由紀は物言わぬ子を護ろうと身をかがめる。

「いらないと言ってくれたら私だってこんなこと言うわけがありません!」

相談員は怒りに声を振るわせながら叫んだ。

「私はお宅に、お腹に宿った命を捨てるようにお願いしていたのです! でもお宅が頑として言うことを聞かないから……」

「待ってください!」相談員は叫ぶが美由紀は聞き入れない。

「じゃあ何故うちの子を殺すような真似をするんです!」相談員は頭を抱え込む。

「もう嫌だ。帰りたい。家に帰してよ……」

「すみません!」「ふざけんないでくれますか? あなたに私の何がわかるっていうんです!」

相談員は涙ぐみながらも「すみませんでした」と言ったが相談員の謝罪に耳を貸す様子はない。女神が声を荒げる。

「じゃあこうすればよかったのですよね?本当にそう思っているんですよね?」

相談員は無言だった。本当はそのとおりだと思いたかったから黙っただけなのだ。女神は続ける。

「あなたの子供を殺してくださいと言えば、素直に従っていたでしょうに」「そんなのわかりきってることじゃないですか!」

「ではどうしてそうしない!」

女神の怒号に、「あの子を死なせたかったわけではありませんよぉ!!」

相談員の嗚咽交じりの声が部屋に響いたが、相談員の言葉を聞き入れる者はその場にはいなかった。

ただ、部屋の隅に佇み事の一部始終を見届けるのみだった。

女神が口を開く。

相談員の顔には絶望があった。それはそうだ。自分のせいで自分の子供を殺してしまうところだったからだ。女神はそれを確認すると満足げに相談員を見た。

相談員にはわからなかったことが1つあった。


この女神の意図が全く理解できなかった。

この相談に来た女性も自分も何も悪いことなどしていないではないか。なのにこの女は何故に自分を罵倒しているのか。わからない……。この場にいる全員が困惑するなか 突如、扉が開き一人の少年が出てきた。

あの転生志望者だ。

少年の手には包丁が握られていた。彼はまっすぐに駆け寄り 女神に向かって突進すると躊躇なく刃を突き立てた。そして 部屋中に悲鳴が上がった――

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