第8話 勇者
「魂には色があるんだよ。青白い火のような光があって、それが魂だよ」
相談員は手にした紙束をめくって図解を示した。そこにある絵を見ながら言う。
そこには人体の各部位についての説明が載っていて、その脇に各器官の絵と魂の色が描かれている。青い炎の中に赤く光る部分がありそここそが生命の源、つまり魂なのだそうだ。ちなみに女神は、美由紀が死んだ後、その魂をどうすべきなのかを考えていたという。女神は相談員を見た。相談員も見ていた。そして、ため息と共にうなずくと僕に向かって告げた。
僕は異世界転生に魂を奪われた犠牲者だという。だが、女神たちの話によるとそうでもないらしいのだ。僕はただ、女神の気まぐれに巻き込まれただけの哀れな道化でしかなかったのだというのだ。何だか急に投げ出したくなったが、僕はそのまま死んだことにされ、これから別の世界に生まれ変わるというのだ。そんな馬鹿げた話をどうして信じなくてはならないのだろうか。しかし相談員の話は続く。
魂とは神にとって一番重要な概念で、これがなくてはどんな生物も生きていけない。だからこそこの世界の生き物は全て魂を持っているという。
例えば魚や虫などの無脊椎動物は魂を持たない。それらは肉を持ったり骨になったりすることで生きており、魂は生まれ持った形のままで変化していないからだと言われている。
魂を持たず生まれた子供は親に捨てられるなどして淘汰されるのだそうだ。女神の話は続いた。
人間は神が作った生命体であり神の手足となるべく魂を与えられたという。女神の言葉はまるで自分が創ったかのような口ぶりだったが、僕はその言葉を信じてしまった。
相談員は神だと信じてしまったし、自分の魂の形を描けといわれた時には目の前の女神にそっくりだと言わんばかりに書き込んでしまった。女神に言われたままに描き上げたのだが相談員の書いたそれはひどく歪なものだったという。
魂は魂同士引かれあうという。だから神であるならば魂を見ることができるというのだ。神ではないものがその真似事をするのは至難のことという。相談
「あなたが書いたその絵は私が見たあなたの生前の姿です」
「え?」
「嘘だと思うのなら他の者に聞きなさい。ここに居る者は全員神なのです」
信じられなかった。この女は一体何を言っているんだ?相談員にはまだ何かあるのかと相談員を見ると、彼女はうつむいて唇の端をかみしめていた。「では今一度尋ねます」
相談員は僕に志望動機を聞いた。
勇者になりたかったのではないか。
確かにそうだ。来世でやり直したい。単に再出発するだけでなく、誰かを助けたい。
ただ、こういうやり方は本意ではないが。
しか相談員たちはいっせいにかぶりを振った。
「貴方のアツい魂に偽りはない。真の勇者なら人助けに如何を問わない」
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