第3話 転生パラドックス問題

ここで一つ厄介な問題が発生する。

前世の魂が新生児の魂と衝突するパラドックスだ。

これに関しては誰にも、少なくとも魂に責任がないと前世の意識は考える。


ここでいう魂と意識は別のものだ。だって胎児にはまだ意思はないのだから。

そして異世界転生を管理しようとしている主観と意識の容器である魂は明らかに別のものだ。


そういう前提を踏まえてみる。


魂があっても憑依はできない、なぜか。魂というものを信じる必要があったと神の声がいう。


だが、「魂を信じるしかない」という発想はどこから来るものなのだろうか。


転生とは一種のコラボ企画なのだ。


自分と胎児の魂の個性をすり合わせる。まず胎児の人となり――その魂がどんな性格・体に育つか、さらに相手の魂は、自分に何を望んでいるのだろうと、いったものを把握し妥協点をまとめる。

それに基づいてクライアントの魂が持つ無限の可能性から拒絶反応の少ないものを試行錯誤する。そして適合した段階で記憶を共有し、お試し憑依してみる。

こうして来世の魂に憑依する準備が整うわけだが、その時点で前世と来世の魂属性が重複ないし混在する可能性がある。

ここで魂の連続性に一抹の不安が生じる。

魂を信じることは本当に重要だが、何も考えず前に進むべきだ。


という結論が出た。だから属性の整理が出来てない魂もありえる。


記憶が完全一致する可能性に関して当事者が神に問うたが前例がないという。


その場合、新たなパラドックスが生じる。胎児の魂はバックアップの復元でなく新規インストールのカスタマイズから始まるわけだから、厳密には「人生が連続する」転生とはいえない。前世の継承という理解でよい。


主観的には寝て起きた感覚であるが、覚醒した「今の自分」は前世を錯覚しているだけだ。それでも記憶や属性はほぼ持ち越されるので滞りなく来世を送れる。

ここで新たな不安が生じる。転生前後の魂を検証する機構がない。

もし、転生後に違和感を感じた場合、不純物混入や第三者の魂に憑依された疑いがある。また質の悪い胎児が着床するリスクもあるという話になる。


しかし、前述のとおり魂をブレンドする時点で完全な交換は不可能なことだ。前世に依存しない真っ新な魂をインストールすることはできない。


魂に憑依された時の肉体に転生前の魂が取り込まれている場合だと、かなりの確率で「魂であることがばれる」可能性が出るという事になる。


それでも女神は魂の混入プロセス自体にセキュリティーホールを発見したので、勝負に出た。魂を入れ子にすることによるトリプル同時転生である。



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