第25話勇者アシュレイ
■■■勇者アシュレイ視点
ミルフィーヌがレティさんの家に住んでいるとは、なんてうらやましいんだ。レティさんの手料理を食べてレティさんと一緒に温泉に入り、レティさんと一緒に寝て、しかもミルフィーヌお姉さまとか呼ばせている。それはさすがにズルすぎるだろミルフィーヌ!
もしや僕のためを思ってレティさんと仲良くしているのかと思って見ていたら、食事を一緒にとる機会すら与えてもらえない。強引にお願いをしようとしたら神官にまで止められてしまった。
仲間だと思っていたミルフィーヌに裏切られるとは想像もしていなかったよ。いや、これは神殿からの強い意志を感じさせる。まさか僕とレティさんの恋路を妨害するつもりではないだろうな。
しかし、わかっていないな。恋は障害があるほどに燃えるものなのだよ。レティさんと一緒に僕は燃え上がりたいっ!
「あー、早く二人でデートをしたいな。二人きりで話をする機会さえあれば何とかなるはずなんだ。なんと言っても僕は世界を救った勇者なのだからね」
せっかく同じ村にいるというのにまだ会話すら出来ていない。レティさんは今何をしているのだろう。そんなことを考えていたらいつの間にかレティさんの住む家の近くに足が向かっていた。
「ここはお兄さんのテイムしたスライムが守っているからこれ以上は近づけないんだよね」
このスライムが優秀で、ある一定の距離に近づくとすぐに反応をしてくる。これではレティさんの声すら聞こえない。
小さな頃に読んだ絵本を思い出す。魔王に連れ去られたお姫様を救う勇者の物語だ。これを乗り越えた先に僕たちの幸せが待っているんだね。
「いやいや、それじゃあレティさんのお兄さんが魔王になってしまうじゃないか。はははっ」
それからしばらくして深夜となり僕の警備も終了しようかと思っていた所で動きがあった。
「あれはお兄さんとスライム……。こんな夜更けにどこへ行くのだろう」
不思議に思いながら見つからないように気配を消していたら、一瞬で目の前から消え去ってしまった。いや、これは
「テイマーであるお兄さんが他の魔法まで使えるなんて、そんなこと普通の農民でありえるのか? い、いや、これだけ広大な畑を一人で管理しているんだ。可愛いレティさんのお兄さんならそれぐらいはやれるのかもしれない」
突然のことに驚いていたらお兄さんの気配を完全に見失ってしまった。多分だけど王都に向かう街道に向かったような気がするんだけど。
「今僕には二つの選択肢がある。深夜にお出かけしたお兄さんの後を追うべきか、それとも防御力の減った魔王城もとい、レティさんの家に侵入してより高度な情報を入手すべきかだ」
お兄さんと一緒に数匹のスライムがついて行ったのは確認している。把握できているのは家の外に見えている三匹と家の中にいる二匹の計五匹か。僕ならいける。むしろ何の問題もない。
いや、ちょっと待て。落ち着くんだアシュレイ。よくよく考えてみたらあの家には現在ミルフィーヌと神殿が認定した神獣がいるのだった。これではスライムの包囲網を抜けたとしても夜這いは成功しない。くっ、何と忌々しい。やはり神殿は僕の敵なのか。
「こんな夜更けに王子様が現れたらレティさんを驚かせてしまうね。であるならば今日のところはお兄さんの後を追ってみよう」
農民が使うブースト魔法なのですぐ近くにいるだろうと思っていたら、何故か王都近くの中間地点まで来てしまった。
「どこかでお兄さんを追い越してしまったのだろうか」
そんなことを考えていたら、すぐ近くで大きな魔力の奔流を感じた。王都に近いこのような場所では考えられないような魔力だ。
まさか、こんな場所で魔族が現れたのか!?
僕は慌てて反応のあった場所へと走り始めていた。勇者としての気持ちが勝っていたのだろう。普通に考えれば魔族相手に僕一人で立ち向かうのはリスクがある。相手が上位魔族の可能性があるのなら、せめて聖女と向かうべきだったかもしれない。
そうすれば合法的に寝顔のレティさんを拝める可能性もあったのだ。僕としたことがとんだ失敗を犯してしまったのではないか……。
まあ悔やんでもしょうがない。いくら僕の
「このあたりの……はず」
その場所にはお兄さんが一人で立っていて、湿地帯に広がっている風景をただ眺めているだけだった。それはどこか哀愁のある背中で、男として憧れるような格好良い姿だった。
不思議なことに周辺にあったはずのモンスターの反応は一切なく、あの大きな魔力反応は一体なんだったのかと思うほどに静かだった。
「驚きました、お兄さん
お兄さんは僕の姿を見て少し驚いたようにしながら涼し気な顔で首を竦めてみせた。
やはり格好良い。美しいレティさんのお兄さんなだけはある。僕が女性だったら放って置かないだろうな。
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