第24話言い訳

「ところで、お兄さんはこんな時間に何をしているんですか?」


 いつからつけられていたのか。勇者のことを少し甘く見過ぎていたか。


 言葉を間違えてはいけない。疑われてはならない。考えるんだ、何かあるはず。こんなピンチは何度も乗り切ってきただろう。


 勇者の目がキランっと輝く。


 こいつの中で僕はかなりの不審人物になっている可能性がある。ただでさえおかしなテイムをしてるのに身体強化魔法まで扱える農民とかどう考えても怪しすぎるだろう。


 落ち着け、落ち着くんだ。まだ絶望するには早い。


 そういえば僕のダークネスブーストで見失ったと言っていたな。ということは、発動したのは家を出てすぐだ。


 ま、まさか、こいつうちの近くで気配を消してストーキングしてたのか……。


 いや、これは逆に利用できる。こいつのことだ、きっとルミナス村に入ってからは毎夜ストーキング活動をしていた可能性すらある。


「実は最近なんですけど、レティの周りで待ち伏せしたり執拗に追いかける人がいるようでして、怪しい人がいないか調べていたんです」


「レティさんを執拗に追いかけるストーカーがいるんですか!?」


 まるで自分は違うとでも思っているかのような反応に正直びびる。自らストーカーって言っちゃってるし、変質者というのは大抵こういう思考なのだろう。


「まだ尻尾は掴めていませんが、村の人たちにもそのことは伝えようと思っています」


 少しは自分の可能性も考え始めたのか、顎に手を当てて考え込む勇者。


「お兄さん、よければ王都のギルドに依頼を出してみませんか?」


「ギルドに依頼ですか?」


「はい、僕に指名依頼を出してください。値段は幾らでも構いません。いえ、十ギルで十分です。依頼をする以上、全くお金を受け取らないわけにもいかないので」


 そんなことしたら、お前がルミナス村に滞在する理由ができてしまうだろうが。誰がそんな依頼をするものか。


「い、いえ。そこまで大事にしたくないので大丈夫です。ほらっ、ルミナス村は今がとても大事な時期ですから」


 観光業において犯罪に繋がることはマイナスイメージになってしまう。ギルドにクエストを発注したらすぐに噂が広まるだろう。


「た、確かにそうですね。でも許せませんよ。可愛いレティさんをストーキングするなんて暴挙。僕は絶対に許せません!」


 いや、犯人は目の前にいるお前だから。僕やスライムたちに気づかれずにストーキングするとか、なんて勇者の無駄遣いをしてるんだ。今後はもう少し範囲を広げて警備をするべきだな。


 兎にも角にもこれで何とか逃げ切った。あとは勇者の役割が無いことを説明していくまで。


「大司教様にも相談して家の周囲の警護を強化してもらおうかと考えています。ほらっ、聖女ミルフィーヌ様も神獣様も我が家には居ますので」


「本当にうらやましい。そういうことでしたら僕が警護しましょう。これでも夜番は得意なんです」


 いやいやいや、合法的にストーキングを許可するような真似許すわけないだろう。


「そういうわけにはまいりません。勇者様はもう少したらまた王都に戻られるわけですし、聖女様と神獣様の警護は神殿の役目でしょう」


「くっ、何で、何で僕は王都から離れられないのか」


 実のところ聖女からの情報は神殿を通じて王宮にも伝えられている。内容は勇者アシュレイのロリコン疑惑だ。勇者を任命した責任も王家にあるので変な噂を立てられたくないはず。また王宮としても何とか王女と結婚させて子孫を残したい。


 テレシア王女がとても不憫だよね。とても美しいお姫さまだと噂では聞いたことがある。男を見る目がないことだけが残念でならない。


 神殿も王宮へ積極的に恩を売ることで力を示し、貸しを作りたいと考えているらしい。あわよくば政治や権力争いに入りこみたいという考えがあったりするのだろうか。


 それにしても聖女がしっかり仕事をしていたのは驚いた。元パーティメンバーよりも神殿の利益を優先するあたり信用できる。神殿の利益さえ提示すれば味方に引き込めるのだから。


 まあ、神殿側と王宮側の立ち位置の違いなのだろう。そういう意味ではルミナス村はすでに神殿側になっているので聖女との関係性は崩さずに早めに疑惑を晴らしたいところだ。


「勇者様に、こんな村は小さすぎますよ」


 無理やりだけどレティのストーキングから聖女と神獣の警護に置き換えて何とか納得してもらえそうな雰囲気に持っていくことが出来た。


「そんなことはありませんお兄さん。僕にとってはルミナス村の平和が何よりも一番ですからね。くっ、それにしても王命のクエストをもう少し減らせれば……」


 クエストはきっと減らないと思うよ。なんならテレシア王女の育成クエストとか発動するらしいから。


「大変なのですね」


「そ、そうだ。もう冒険者なんか辞めてしまえばいいんだ。僕の役目は魔王を倒したことで終わっている。僕も引退して、そのー、畑を耕したいかなぁーとか」


 引退して畑を~あたりでチラチラと僕を見てくる勇者アシュレイ。


 うちの畑は触らせねぇーよ。

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