第23話街道沿いの駆除

 夜になって五匹のスライムを連れて家を抜け出すと街道沿いの魔力反応を追っていく。スライムが日々モンスター狩りをしているので村の周辺はモンスターの反応は皆無と言っていい。


 ちなみにレティ達を魔法でぐっすり寝かしつけてからきている。暗黒魔法のダークネススリープの効果はてきめんで間違ってリタもぐっすりといってしまった。


「まあ、寝ようとしている人間に睡眠魔法をかけれるわけだから効果も高いよね。念のため誰か起きたらすぐに眠らせるようにリタにお願いするつもりだったのに一緒に寝ちゃったからな」


 ホワイトクイーンタラテクトはかなり上位種のモンスターだと思うのだけど、家で過ごすうちにその野生が失われてしまったのだろうか。説明していなかった僕が悪いとはいえ、全員一瞬で落ちたのは驚いた。


「まあ、いい。早めに終わらせてすぐに戻ろう。スライムたちはモンスターを見つけ次第せん滅するように。あと強い個体がいたら僕に報告を頼む。それからあまり王都に近づいてはいけないよ」


 僕の指示に従ってスライムたちが散開していく。この周辺に現れるのはジャンピングフロッグとバイオレンスドッグぐらいだ。どちらも数匹であれば駆け出し冒険者でも討伐可能。


 この時もう少し慎重に行動すればよかったと思うことになるんだけど、聖女を寝かしつけたことでどこか気が緩んでいたのだろう。



 さて、王都方面にしばらく進んでいくと少ないながらモンスターの反応がポツポツと現れてくる。


 僕らが討伐するのは群れている奴らだ。さすがに乗合馬車が群れの攻撃を受けてしまったら無傷で離脱することは難しい。周囲を警戒する冒険者を雇ったりするのだろうけど、初回はとても大事。大抵の場合問題が発生するのは初日と相場が決まっているのだ。


 王都からも近く安全安心に楽しめる観光地。温泉でゆっくりも出来るし、教会には勇者パーティにいた聖女様がいてルミナス村を守る神獣様まで拝める。


 ルミナス村周辺は過剰な程にモンスターの駆除が進んでいるのだが、王都からの街道沿いはそれなりにモンスターが現れる。


 弱いとはいえ群れで出てくると面倒だし、そこそこ強いボス個体を見つけたら、そいつをテイムして管理させようと思っている。


「ダークネスボム!」


 丈の長い草むらに隠れるようにしてバイオレンスドッグの群れが牙を剥いて狙いを定めていた。もちろん全て駆除させてもらう。


 僕もこれぐらいのモンスターなら楽に倒せるまで魔力量が増えてきている。そろそろ本格的に魔法を鍛え始めてもいいかもしれない。



「おっ、早速ボス候補を発見したのかな?」


 スライムから連絡が入り、ちょうど中間地点ぐらいにある湿地帯にお呼びがかかった。すぐに身体強化魔法を使って現場に向かう。


「ダークネスブースト!」


 街道からは少し離れてはいるものの、そこにいた群れの数は二十匹と多い。ゲコゲコと威嚇の声を上げながら頬を膨らませているジャンピングフロッグ。その内一体が他と比べてもかなり大きく、おそらく進化可能なボスといったところ。


 ジャンピングフロッグ自体はそこまで脅威なモンスターではない。攻撃はその伸びる舌にさえ気をつければいいし、捕まっても大人なら脱出も可能だ。


 気をつけるとしたら麻痺性の高い消化液だろう。数を相手にして時間をかけすぎると足元をすくわれる。


 僕はボスの前に立つと暗黒魔法を解放する。野生のモンスターをわからせるには力を示すのが一番手っ取り早い。


「前よりも少しは魔力の量も増えている。これならここら一帯のボスである君ぐらいならテイム出来るんだけどどうかな?」


 冷や汗を浮かべながら後ろずさっていたジャンピングフロッグは僕の提案を聞いて迷わずに目の前までジャンプして来ると頭を下げた。これは是非ともお仲間にしてくだせぇと言っている感じだ。


 ジャンピングフロッグの頭の上に手を置くと魔力を流していく。


「ダークネステイム!」


 テイムされたボスは予想通りに進化をするために光に包まれていくと一回り大きな体になって現れた。


「ちょっと大きすぎるね。これじゃ目立って逆に討伐対象になっちゃうんじゃない?」


「げ、げこげこ……(そ、そんなご無体な……)」


「小さくはなれないの?」


「げこげーこ、げこげこ(それは無理ですが、色を変えることなら出来ますぜ)」


「おおー、カメレオンフロッグに進化したのか」


 その名の通り、自分の体の色を周囲に溶け込ませるように変えることができる。その際には魔力や気配なども消せるようで中級冒険者殺しとしても有名なモンスターだ。


「それなら大丈夫かな。よし、君の役割はこの辺り一帯のジャンピングフロッグとバイオレンスドッグを適度に間引いてもらう。特に街道沿いにモンスターが出ないようにしてくれ」


「げこげーこ(お安い御用でさぁ)」


「ジャンピングフロッグを間引くのは何とも思わないんだね」


「げご、げこげーこ(自分、もうカメレオンフロッグなんで)」


 ついさっきまでジャンピングフロッグだったのに生きるために元仲間を倒すことも厭わない。これがモンスターの思考だ。この考え方は魔族に近いのだけど、魔族はモンスターよりも頭が回るぶん狡猾でより面倒になる。まあ、今の僕には関係のない話だけど。


「げこげーこ(旦那、何か来ますぜ)」


「この魔力は勇者か……。ちっ、それじゃ君とはいったんここで別れよう。念のために色を変えて気配も消すように」


「げーこ(ラジャー)」


 それから少しして、勇者アシュレイが僕の目の前に現れた。で、どうしよう何でこんな所にいるのか説明しなければならないよね。



「驚きました、お兄さん身体強化ブースト魔法を使えたんですね。一瞬で見失ってしまって探すの苦労しましたよ。この辺りで急に大きな魔力反応があったので駆けつけたのですが……あれっ、何もいませんね」


 お前にお兄さんと呼ばれる覚えはねぇー。

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