第26話新ルミナス村誕生

 翌朝、何事も無かったかのように帰宅するとまだ誰も起きていなくて全員分ぐっすりと寝ていた。


 スライムに確認したところ「一度も起きてないよー」とのこと。なかなか使い勝手の良い魔法ではあるが、レティを何度も魔法で眠らせるのは、成長段階にある体に変な影響が出るかもしれないので避けたいところ。


「さて、久し振りに朝食でも作ろうかな」


 料理はレティが上手なので任せ切りになっているのだけど僕も作るのは嫌いじゃない。朝食で食べる簡単なものならお手の物だ。ちなみに時間をかけて作る凝ったものほど美味しさが比例してこないという悲しみがある。


 それはさておき、卵とトマクの実を刻んだものを混ぜて味を整えながら焼いていく。いわゆる卵焼きというやつだ。男の料理の定番とも言える。あとは燻製肉を焼いて葉物野菜を手頃なサイズにカットしていく。


「よし、そろそろパンも焼けたかな」


 キッチンから良い匂いがしてきたからなのかレティが起きてきた。リタと聖女はまだ寝てるっぽいな。


「ごめんなさい、寝坊しちゃったみたい。朝ごはんお兄ちゃんが作ってるの?」


「疲れてたんじゃないか? たまにはお兄ちゃんにも作らせてよ」


「おかしいな……。昨日は早く寝たはずなのに。でも頭が妙にスッキリしてるんだよね」


「そ、そうか」


「いい匂いだね。あっ、スープ温めるね」


 おっと、僕としたことがスープのことをすっかり忘れていたよ。


「お、おはようございます」


「ミルフィーヌお姉さま、おはようございます。ゆっくり眠れたようですね」


「ええ、なんだか記憶がないぐらいにぐっすりと寝てしまったみたいです。少しはこの生活にも慣れてきたのでしょうか」


 慣れないでもらいたい。聖女と寝る日はいつも寝不足になってるんだ。しかしながら、聖女にもこの魔法が効くというのであれば今後はバレないようにこっそり使っていこう。聖女は大人だし何度眠らせても問題ないだろう。


「今日は観光客がいっぱい来るんですもんね。ミルフィーヌお姉さま頑張ってください」


「そうですね。今日はリタさんにも活躍してもらわなければ……って、リタはさんはまだ寝てるのですか?」


「起きた時に声をかけたんですけど、また寝ちゃったみたいですね」


「しょうがないですね、私が起こしてきます。午前中はリタさんと打ち合わせもありますし、早く準備してもらわなければなりませんから」


 本日は新生ルミナス村のお披露目。昼過ぎには第一便で観光客が訪れる予定だ。観光地として人が呼べるようなものは聖女と神獣様に温泉のみ。その内、神獣様と温泉については偶然の賜物でもある。


 特産物として美味しい野菜はあるものの、聖女一人だけという観光資源でこの計画を練っていた神殿と村長の判断がゆるすぎてちょっとこわい。この聖女にそんな力があるのだろうか。


「な、何ですか。人の顔をジロジロと。まだ化粧もしてないのであんまり見ないでください。ほらっ、リタさんも早く目を覚ましてください」


 まあ、勇者パーティの人気というのはよくわからないけど、聖女と言う役職はそれなりに人気なのだろう。そうでなければこんな無茶な計画が立てられるはずがない。


「ご主人様、おふぁようございます」


 モンスターであるリタは夜行性だったので、朝起きるのを苦手にしている。人型になってからそれなりに日が経つものの慣れないらしく、覚醒するのは昼頃になってからだ。


「うん、おはよう。温かいスープを飲んだら少しは目が覚めるぞ」


 今日のリタは神殿で終日ホーリータラテクトを演じてなければならない。大司教様いわく、初日のインパクトと口コミの噂が重要とのこと。ルミナス村のみんなも最初の数日は大盤振る舞いのサービス重視でおもてなしすることが決められている。


「ご主人様、今日はお手伝い出来なくて申し訳ございません」


「いいよいいよ。畑仕事はスライムたちで十分足りてるからね」


「最近は私も手伝ってますから問題なしですよ。リタさんはお兄ちゃんのために神殿勤務頑張ってください」


 リタにも畑仕事を少しは手伝ってもらっているが作業の方はスライムたちの方が得意なので、メインは出荷とか箱詰め作業になる。


 本当の仕事は昼過ぎから夕方に行うルミナス村周辺のモンスター駆除なのだけど、観光客が多く訪れるようになるとイメージ的なものもあるので蜘蛛の糸による罠の設置も考えるつもりだ。罠に掛かったモンスターはスライムが回収できるからね。


「ところで、リタさんの給料についてですがレン君にお渡しするということでよかったですか?」


「えっ、リタ給料もらえるの!?」


「あっ、まだ話をしておりませんでしたか。一刻の出勤につき50,000ギル、半日以上の勤務は200,000ギルが上限のお支払いになります。基本的には神獣の座に座っているだけで大丈夫です。それからお供え物については基本的にお持ち帰りいただく感じとなっています」


 神獣の座は神殿の一番奥の祈りの間にある煌びやかな台座のことだろう。何を置くのかと思っていたら神獣様の席だったのか。


「大司教様とも相談してからの判断になりますが、お布施の金額によっては神獣様へのお触りを考えているのですがご検討願います」


 リタの方を見るとあきらかに嫌そうな顔をしている。レティや聖女とは一緒に寝ているので平気なのだろうけど、知らない人に触られるっていうのは気持ちのいいものではない。


「それはちょっとご遠慮させてもらおうかな」


「ちなみにワンタッチ100,000ギルで考えています」


「わかった。少し考えさせてもらおう」


 どうしよう。リタの稼ぎが僕の稼ぎの数倍になりそうなんだけど。


 リタは少しだけ悲しそうな顔をしたものの、大丈夫です、やります! という強い意志を僕に向けている。やはり、お触りは要検討だな。別にうちの家計はそこまで厳しくもない。

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