第15話 新人冒険者養成学校入学試験―第1試合

 オークの首を何とか跳ね飛ばしたアリアだが、【金色の王龍】はアリアの扱える最高の王龍剣術と言うだけあり、アリアはフラッと倒れかけた。


 王宮に戻り、国王陛下に今日の成果を報告し終わって、明日の新冒校入試に向けた準備をする事にした。今日の激戦でレベルは多少上がっており、俺は34、アリアは聖女セイントに転職して38のレベルを誇っている。


 新冒校の入試は大会形式となっており、大会でよい成績を収めた場合又は戦いぶりがよかった場合が入試合格となるのだ。大会当日に使う武器は新冒校から貸し出される木製の物を使う決まりなので、武器の手入れはいらず、必要なのは公式の剣に慣れる事だという。


 暫く公式の剣を使って素振りをし、体を公式の剣に慣らす。ようやくその軽さに慣れて来た所で、普段エクスカリバーを使うときのように右手で持って振る。そして、公式の剣をエクスカリバーと同じように扱えたところで、明日に備えて早めに寝たのだった。


 翌日。眠れないかと思ったが、たっぷり9時間ほど睡眠をとった俺と、寝ていたと思っていたが3時間程度しか睡眠をとれなかったアリアの二人は、新人冒険者養成学校入学試験会場である、新冒校の闘技場にやってきていた。実はここ、王宮の隣だ。


 会場は熱気に包まれていた。毎年行われる大会らしいが、娯楽の少ないこの世界では、この大会は余程人気の娯楽のようで、座席券は既に完売、立見席も約9割が購入されているという。


 この大会の参加者は例年256人までに制限されており、それを超えた場合――まあ、殆どの場合ではあるが――、抽選にて選ばれるという。今回の抽選参加者は300名と少し、それなら2人とも当たることはそんなに珍しくはないかと納得している。


 準備室では猛者と思われる者たちが公式の鋼剣を受け取り、軽く素振りなどをして準備していた。で、気になってステータスを覗かせていただくと、勇者でも何でもないのにとんでもないステータスに達している者が大体だった。中には近接ステータスオール10000越えという、俺のような脳筋ステ振りをしている者も少なくなかった。


「アリア、参加者たちはなんでこんなにステータスが高いんだ? 勇者でもないんだし、成長補正とかは入らないだろ?」

「言ってませんでしたか? 【竜玉】と呼ばれる、竜(ドラゴン)の心臓を加工した飴玉のようなものがあるんですが、それを食べると個人差がありますがステータスが大きく上昇するのです」


 【竜玉】。野菜の星の住民たちによる某国民的バトル漫画の7つ集めると願いが叶う玉じゃないだろうな……。

 ちなみに命名は当然のように【因果と勝利の勇者】勝界人だったので、本当に某国民的バトル漫画をイメージしたのではないかと疑ってしまう。


「それって食べ過ぎると死んだりするのか? ノーリスクで強くなれるはずないよな」

「最大9個まで食べられて、【竜玉】を食べた数で『ランク』という物が表されるそうです」


 そんなの見かけたことないんだがな。でも、竜(ドラゴン)の心臓というくらいだし、滅多に出回るものではないだろう。今度見かけたら買おうかな。


「アリアは食べてるのか? 王族なんだし、どうにか取り寄せられるんじゃないか?」

「【竜玉】なんて高価な物、落ち零れ第4王女が食べられるはずないでしょう。あ、勇者に【竜玉】は効果がないと、【因果と勝利の勇者】様の書物には書かれていましたが」


 まじか、効果がないのか。でもアリアが食べてないっていうのなら、今度見かけたときに買ってみようかな。見かけるかは別として。


 割と重要な雑談をする間にも俺とアリアは準備を進めており、もういつ大会に参加してもいい状態となった。そのうちに闘技場の試合場では大会トーナメントの順番がくじで決められているらしい。


 俺の出番が回ってきた。といっても、1番最初の試合で俺と【爆炎の王子】の二つ名を持つ第2王子、ラファエルが対戦するのだが。【爆炎の王子】って、天使ラファエルの要素なくないか?


 ラファエル王子は王族の為、【竜玉】も大量に食べているはずだ。もしくは9つ分全部を食べているかもしれない。それならかなりの実力者だろう。もしかすると大会で最も盛り上がる試合かもしれない。勇者vs今年の新冒校入試で最強と言われているらしい、【爆炎の王子】なのだから。


 試合開始まであと1分になった。ナレーション担当の新冒校教師が声を張り上げ、観客たちに向けて高らかに叫ぶ。


「勇者金堂勇様vs【爆炎の王子】ラファエル=ステイシア=アラナンド様の、新人冒険者養成学校入学試験大会、第1試合、開始ですッッ‼‼」


 観客たちはそれに応え、「オォォォォォォ‼‼」と雄叫びを上げた。若干、ラファエル王子に対する黄色い声も交じっている。


 俺は公式に用意された鋼剣を、ラファエル王子は魔術の媒介にするのであろう、同じく公式の杖を構えた。一瞬視線が絡み合い、次の瞬間、爆炎の波がラファエル王子の前方向広範囲に撒き散らされる。そんなものには当たりたくない俺が全力で足を踏み込み、ラファエル王子の後方へ回ると、剣を振り上げ、次の瞬間に振り下ろす――。


 ラファエル王子は高速で抜剣し、頭上に炎を纏わせた剣を掲げる。俺の剣とラファエル王子の炎の剣がぶつかった途端、凄まじい爆音と共に衝撃が俺を襲う。


 どうやらラファエル王子が掲げたのは唯の炎の剣ではなく、爆炎の剣だったようだ。二つ名から気づくべきだった。


 俺は爆炎の剣が引き起こした爆発の衝撃を利用し、全力で退避する。ラファエル王子の魔術による追撃を空を蹴って躱し、更に下がる。爆炎に対して剣での迎撃は悪手だから、今の俺には躱すしか手段がない。職業(クラス)は【賢者(ワイズマン)】だが、知識がなければ何もできない。無論、魔術戦闘など不可能だ。


 賢者なのに魔術を使えないというのに理不尽なところを感じたので、急に前進し、ラファエル王子に向けて剣を振ってみる。ラファエル王子は予想の通り剣で受けたが、急なことで今度は爆炎が付与されていない。


 もう一度、爆炎を付与させる暇を与えずに斬撃。今度はラファエル王子が勢いをつけて剣を振ったので、俺の剣が弾かれる。手から離れるような事態にはならなかったが、体勢が少し崩れた。


 その隙に、ラファエル王子が突きを放つが、俺が少し体を右にずらすと、突きは力なく俺の左頬を掠って止まった。刹那、俺が持った剣が力を取り戻し、その柄頭でラファエル王子の、体勢がほんの少し崩れた胸を思い切りどつくと、ラファエル王子は意識を失い吹っ飛び、審判がラファエル王子の戦闘不能を認め、試合は俺の勝利にて終了した。

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