第11話 第2領域を攻略しながら、アラナンド教について語る

 今日は、待ちに待った第2領域攻略の日だ。アリアの武装は、王家の秘宝【神剣】と【神鎧】、俺の武装は聖剣エクスカリバーと聖鎧フォトンアーマー、ライムの武装はやはりついでにと今朝買い足した無双聖具アイギスだ。


 ゴブリン達を斬り倒し、数十分ほど歩くと洞窟が見えてきた。最強の勇者とも呼ばれるている勇者――その名を【因果と勝利の勇者】勝界人――が以前ここを攻略した際、王家に『守護者は洞窟にいる』とだけ伝えていたらしく、洞窟に守護者がいるという認識が世間に広まっている。


 余談ではあるが、【因果と勝利の勇者】勝界人は、結局戻ってこなかった10回の転職後7レベルだった人と同一人物だそうだ。


「それじゃあ、入ろうか。用意はいいね?」

「勿論です。中にはゴブリンを片手で屠れる『オーク』という魔物がいるらしいので注意していきましょう」


 オークね……。アリアはいかない方がいいんじゃないかとは思ったが、既に手遅れだった。洞窟から数匹の太った鬼――オークが出てきていたからだ。アリアはオークの怪力に捕まっており、抜け出せそうもない。あのオークの怪力スキル、何レベルだろう。


「ちっ……王龍剣術奥義改【王龍牙・絶】」

「なんですかその技は……本当に何でもありですね」


 俺がアリアに教わった、王家に代々伝わる剣術の流派『王龍剣術』の奥義、【王龍牙】。巨大な黄金の龍――王龍。その牙をを剣に纏わせ、敵に食らわせる技だが、俺はそれを改造し、王龍に触れたものを消し去る剣技となった、【王龍牙・絶】を放った。


 この【王龍牙・絶】を発動するのに必要なことは、大量の魔力を流し込みながら剣を右肩に担ぎ、右外側を通る剣撃を放つことだ。


 オークたちは俺の【王龍牙・絶】を急所に食らい、内臓や動脈を消し飛ばされ次々絶命していく。かなりの魔力と体力を消費するこの技だが、威力は折り紙付きだ。たったの一撃だけでアリアを救い出し――アリアはライムがコーティングして金剛スキルで固めて守っていた――、オークを殲滅したのだった。


「消費が結構激しいな……」

「え、今の何ですか本当に。あんな技ありましたっけ」

「妾の記憶だとなかったのじゃ。ここ200年は見ておらん。それより御主人よ、魔物使いが荒すぎるじゃろう」


 それはそうかもしれない。クッション代わりに使われるスライム、途轍もなくシュールな光景が見られた。


《スキル・高速魔力回復を習得しました! スキル・高速魔力回復 魔力の回復が高速になる》


「狙い通り、と」

「勇者剣術聖剣流もすごいですが、王龍剣術を使ってもすさまじいですね」


 勇者剣術――昔々、伝説の勇者が作った剣術だ。その伝説の勇者というのは当然のように【因果と勝利の勇者】勝界人なのだが。本当は勇者には、俺と勝界人しかいないのではないかと疑ってしまう。まあ実際は、闇堕ちした勇者などもいるようだが。


 それは兎も角、俺は元々勇者剣術より王龍剣術の方が合っていると思っていたので、そちらの方が上手なのは当然だと思う。


 俺は意識を目の前の洞窟に戻した。そこから新しいオークが出てくるような気配は微塵も感じられないが、警戒はしておく。


「なんにせよ、アリアを助けられてよかった」

「勇さん、助けてくれてありがとうございます!」


 アリアの感謝を受け取ると、俺達は警戒を強めて洞窟へ進んだ。洞窟に入ってみると、オークが溢れんばかりの数いた。人口密度で表すなら東京のスクランブル交差点みたいな。当然のように襲い掛かってくるが、全てのオークたちを切り捨てる。


 オークたちを斬り殺す不快感に耐えながら進むと、今まで遭遇したオークより一回り大きいオーク――【因果と勝利の勇者】勝界人によると、オークソルジャーだそうだ――がオークたちに混ざるようになってきた。


「でかいな。元々のオークですらかなりでかいのに、それよりも一回り大きいしな……」

「こんなのが大量に襲い掛かってきて、勝てるのでしょうか……。勇さん、負けそうだったら手伝ってください……」

「御主人が行く必要すらないのじゃ。妾が手伝うのじゃ」


 ライムが俺の負担を減らそうとしているのは分かったが、俺の呼び方が毎回変わっていたりしないだろうか。


 訳のわからないことを考えながら進むこと凡そ一時間、今度はオークソルジャーよりもさらに一回り大きい精鋭オークのオークナイト――これも【因果と勝利の勇者】勝界人より引用――が出てくるようになってきた。俺はレベルアップによる戦力の伸び幅が大きいから問題ないが、アリアはきつそうなので、少し休憩してから行くことにする。


「アリア、疲れてるよな」

「はい、このまま進んだら死にそうです……」


 死にそう、か。それはかなりきついのだろう。正直、アリアが単身でオークナイト複数を相手して勝てているのが常識外なレベルだ、死にそうでもおかしくはない。やはり休憩しよう。


「それじゃあ話でもするか」

「そうですね……アラナンド教について詳しくないみたいですし、それについて話しましょうか」


 話ってそういう意味ではないのだが……とか思ったが、いつまでも世間知らずでいられない。アラナンド教はこの世界で最もポピュラーな宗教らしいし、話を聞いておこう。


「頼む」

「アラナンド教は、凡そ500年前に成立したと言われています。当時、アラナンド神国の前身であり、世界を統べる国であったステイシア神国を統べていた、ワルド・ステイシアという王が教祖です」


 ステイシアって、神がどうとかって意味じゃなかったか。神を名乗る王様が統べる王国って、アラナンド神に滅ぼされたりしなかったのだろうか……。


「それで……?」

「アラナンド教の起こりは、王国歴17年――これが505年前の話ですね――、ようやく王国の世界支配が安定してきたころです。ワルド王は王国歴14年にアラナンド神の神託を聞いたと言われています」


 なるほど、ワルド王は王国歴14年――508年前に死んだんだな、アラナンド神に殺されて。で、アラナンド神が王国歴17年にアラナンド教を作り出した、と。まあ冗談だが。


「ある日、ワルド王が支配に辟易していた時でした。その時、ワルド王の目の前にアラナンド神が降臨したとされています――」

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