第10話 第2領域対策
結局、家は暫く購入せずに第2領域で狩りを続けることにした。回ってみたところ、あの店程ではないにしろ、真面な不動産屋がなかったからだ。正直、全部斬りたかった。
どうやら第2領域の最奥にある洞窟に、『エリアボス』または『守護者』と呼ばれる、魔物の特殊個体がいるようで、そこに挑むことを目指してレベリングを進めている。ゆくゆくは第10領域……通称最終領域にいる魔王に挑むのだ。守護者を倒さないと進めないので、守護者を倒す以外に道はなかろう。
「全く、生物を斬る感覚には慣れないな……」
「慣れて欲しくないですし、それでいいと思います」
「まあ、そうだよな。慣れたらもうただの殺戮鬼だ、人間じゃない」
アリアと会話をしながらも、俺とアリアは周囲を警戒する。先程斬ったゴブリンの群れを斬り終わったので血の匂いで他の魔物が寄ってくることを警戒しているのだ。
そこへ、ゴブリンの集団がまたもややってきた。俺は剣を薙ぎ払い、ゴブリン達の内数匹を殺す。やはり気分が悪くなる。アリアもゴブリン達を斬った。
アリアのステータスは俺より低いというのは最近知ったことだが、握っている【神剣】と、身に纏う鎧――と言っても部分的だが――、【神鎧】のステータス補正は圧倒的だ。それに加えて技まで洗練されているのだからそれはもう相当強いだろう。現に、俺よりも多くのゴブリンを斬殺している。
そんなことを考えている内に、ゴブリンの群れは全員斬り殺した。合計20匹以上。第2領域の奥に進むにつれて、確実に数が多くなっている。神都に近い所では群れは10匹に届かない程度であったのがその証拠だ。魔物が多く集まると、『対魔神力領域(アンチモンスター・ゴッドフィールド)』の影響を受けやすくなるそうだ。
「そろそろ本気で攻略しようか。今日は早めに戻って、明日は朝から守護者を探さないか?」
「それでいいと思います。早く勇さんと結婚したいので。それで、結局家も買いませんでしたし、取り敢えず武器とか防具を買っておいたらどうですか? 勇さんなら、家なんて一週間で買えますよ!」
ギルドが、金が枯れて困っている、と言っていた記憶がある。どうにもゴブリン素材を卸すのが間に合わないようで一時的だが財源が枯れているのだ。因みに、ゴブリン素材――ゴブリンの皮は、床に敷く敷物に使われているらしい。
◇◆◇◆
神都に戻ってきた。まず王宮に向かい、現在の王様――ミカエル国王陛下に交渉を吹っ掛けに来た。いくら『対魔神力領域(アンチモンスター・ゴッドフィールド)』と言えども、魔物の数が多すぎると魔力の貯蓄が間に合わず、溢れ出してしまうそうなので俺がいて助かっているらしい。ある程度の願いなら聞き入れてくれるだろう。
「それで、王家の所有する武器とか防具を買い取りたい、と仰るのですね」
「はい、その通りです」
経緯を説明すると、ミカエル国王陛下は考え始めた。彼の頭の中では様々な計算が為されているのだろう。流石、『アラナンド神国一の賢王』様だ。
「いいでしょう、貴方には私を国王にしてくれた恩もありますし、買い取るだけならば」
「ありがとうございます」
ミカエル王子を国王にしてくれた恩というのは、邪魔な父を殺したことでミカエル王子が国王になるのが早まったということだろう。正直言って、実の親が死んで喜ぶのはちょっと怖いのだが、この世界は政治闘争が元の世界よりも圧倒的に激しいようなので、それは仕方ないこととして割り切って考えるしかないのだろうか。この世界は、やはりいろいろな意味で命が軽く扱われている気がする。
「まずは王家に代々伝わる伝説の盾、『聖盾アイギス』」
「おお、なんか格好いい」
その盾は、何やら皮のような物で出来ていた……うん、これあのアイギスだな。ゼウスの所有物の、なんかすごい奴。そういえば、アラナンド王家は神の家系とか言っていたし、祖先の知り合いだったのか、ゼウスは。
兎も角、俺は盾は使わないので必要ないかな……。ミカエル王子に次の防具を促してみる。何かは帰るといいが……。
「次がこちらの鎧は、ここ50年で最も腕がいいと言われた鍛冶師が作った鎧に、世界最高峰の聖職者と魔術師が百人ががかりで古代魔術効果の付与をした『聖鎧フォトンアーマー』というものもあります」
「起動すると光の鎧みたいなのが現れると言う事ですか……格好いいですね。光だから質量もほとんどないし、動きやすそうです」
『防具核(アーマーコア)』――武器核(ウェポンコア)の防具版――だけが存在していて、そこに魔力を流し、胸の前に持ってくると鎧が可視化され、光が収束、質量を持つようだ。その光の密度はすさまじい。さらに、50年前のものだからか、着られないほどセンスが悪い訳でもない。この鎧は買ったな。
「他にも、槍や戦斧などがありますが……必要ありませんよね」
「そうですね。この鎧は買いますが、盾はいいです。盾は持たないので。いくらですか?」
「アラナンド神貨3枚で手を打ちましょう」
「はい、これで」
俺はアラナンド神貨3枚をミカエル国王陛下に支払い、謁見の間から俺の私室へ向かった。そこにはアリアがいる筈だ。明日、早く行けるように準備してから寝よう。もう夜の11時に相当する時間だ。
部屋には、予想通りアリアがいた。アリアはもう風呂に入っていたようで、髪を乾かして俺のベッドで眠っていた。俺も風呂に入り、ベッドで寝る。そして、俺の意識は微睡みに飲まれていった――。
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