第6話 処刑

「スライムと隷属契約が結べました」

「何を言う! 処刑だ処刑! こいつに多数の騎士が殺された!」

「父上、無益な殺生は何も生みません」

「黙れアリア! 出来損ないの分際で!」

「それ以上言うのなら俺も許さない」


 最早カオス状態となっている王宮・謁見の間。

 スライムはもう無害、それなら殺すより働かせようと主張する俺とアリア、それに対してスライムに多数の騎士が殺されたからスライムは処刑と叫び、更にはアリアまで貶した王様の言い合いが、訳の分からないことになっている。


 アリアを馬鹿にされて本気で怒る俺に、王様は少し静かになったが、その瞳は怒りの色で染まっている。俺はこのままアリアと一緒に神都を去っても構わないのだ。


「わ、分かった。それならばスライムの飼育は許可するが、代わりにアリアを処刑させてもらう」

「お前、王である前に父親として失格だな! 娘を処刑とかふざけたこと言ってると首が飛ぶぞ」

「勇様、それ以上言うと追放されてしまいます……。私の事はいいので止めてください……!」


 アリアが何か言っているが、俺は追放されたってアリアがいるなら構わない。生活費なら一生遊んで暮らせるくらいには持っている。俺の生活より愚王を正してアリアを助ける方が大切だろう。


「よくも、よくも私を……! 騎士ども! こいつを不敬罪で処刑するがいい!」

「やれるものならやってみろ。身の安全は保証できない」

「あの、勇様! お止めください……!」


 騎士たちは動くか動かないかで迷っている。何ならここで王と決着をつけようかと思う。


「陛下、そこまでにしてはいかがかな?」

「何を言うグラン、貴様ならわかるであろう!」

「えぇ、分かりますとも」


 王は、「それなら」というような表情を顔に浮かべる。それを無視してこの国の宰相、グランは続ける。


「娘の可愛さが。父としての責任が」

「なんでそんなに娘を疎ましく思う?」

「勇様、このままでは鏡神かがみ騎士団が来てしまいます!」

「アリア! お前は黙っていろと言っただろう!」


 王には学習能力がないのか、と思う。流石愚王だ。そうしたら俺に脅されるのは分かっているだろうに。先ほど、威圧スキルを得た。俺の威圧は強化されている筈だ。


「そこまで頑ななら、俺が武力行使に出るしかないな」

「そ、そんな……っ!」


 俺は王に歩み寄り、腰に差した聖剣を頭上に掲げる。勇者剣術聖剣流の技が持つ、純白の光を聖剣が帯びる。そして、周りの騎士達やグラン宰相に向け、口上を述べる。


「こいつは罪を重ねた。王だろうが関係ない。聖剣によって神罰が下される」

「や、止めてくれ!」

「死ね。<神罰の光>」


 純白の光が、聖剣の剣身に収束する。そして俺は目を瞑り、剣を振り下ろして王の首を正確に斬り飛ばす。一瞬で息がなくなった。直接俺の手で生物を殺したのは初めてだが、気持ち悪くはならなかった。


 その後、次期国王を決める会議が勃発した。まあ唯の承認会といったところだ。勿論、王位継承権第1位の短髪の金髪に碧眼という、アリアに特徴が似ている――まあ、腹違いとは言え王家の者だから同じ特徴はさして珍しくもない――、ミカエル王太子が王位を継承することになった。

 俺は勇者会という、魔王の討伐を進行する組織の、名誉会長に選ばれた。権力を得るだけだった。


 俺は王を斬ったとして処刑或いは糾弾されるかと思ったのだが、これは腐った政治を無くす為の手段として行った、英断であると民間に広げるそうだ。

 何か意味があるのか、王族で政治に詳しいはずのアリアに聞く事にしよう。


「アリア、俺の行動が英断と言われたことに何か利点はあるのか?」

「神国としては魔王が凄く邪魔ですからね。それを討伐する勇者は貴重でしょうね」

「何で邪魔なんだ?」

「東に遠征しようと思って、神国もかなり無茶したところで魔王に邪魔されたのです。神国は滅亡寸前ですよ」


 まあ俺を利用しよう、と言う事なのだろう。俺は別に利用されようがwin-winの関係を保てるなら構わないのだが。


「それよりもアリア、お前って本当に可愛いよな」

「きゅ、急に何ですか? 嬉しいですけど……」

「いくら虐められてようがこんなに可愛いのなら近づく者もいそうだけどな」

「ま、まあタイプじゃありませんでしたからね、追い払っておきましたよ」


 それでも孤独を貫いたのか……。精神力が凄いな。それとも単に心が折れて自棄になっていたのか? どちらにしろ超人なのか?


 アリア、クソ野郎――王のことだ――にも相当な嫌われようだったしな。ここでも何かあったんじゃないかと思ったんだが……。


 それより、隷属させたスライムが話しかけてきてウザいんだよな。しかも人形態だから、周りからのロリコン扱いされているような冷たい視線が酷い……。

 なんか相手してやるか。適当に名前でも付けておけばいいか。


「アリア、スライムに名付けようと思うんだが、どうする?」

「私としては『ライム』がいいです」

「妾もそれでいいのじゃ」


 それで決定すると、魔力がゴッソリ吸われ、名づけスキルを習得した。この世界の名づけってなんだよ……。

 とにかく、俺達は新しい仲間、ライムを手に入れたのだった。

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