第5話 再戦

 俺は目を覚ます。その隣には、可憐な少女――アリアだ。起きている間は多少のポンコツ感が否めない彼女だが、寝顔はその年に相応しい。いつも俺を誘惑(?)している彼女のものとは思えない。


「あ、勇さん!おはようございます」

「あ、あぁ。おはよう。今日も剣を振りに行くのか?」

「自分にはそれしかありませんので」

「俺もやるか……」


 俺は今日も剣を構え、素振りを始める。純白の光が青い朝の空に輝く。俺はそんなことを気にせずに剣を振り続ける。

 隣にアリアがやってくる。彼女も黙って剣を振る。剣筋が碧色に光る。


「相変わらず、綺麗な剣ですね」

「聖剣だしな」


 この剣は聖剣。王家に代々伝わる宝剣なのだ。綺麗に決まっている。……まあ、石に刺さっていたので緊急で手入れして貰ったものなのだが。


「違いますよ。その剣ではなく、剣筋が綺麗なんです」

「まあ、そうだろうな。これもスキルの影響だ」


 そう、俺の剣筋が綺麗なのは剣筋補正スキルの恩恵なだけに過ぎない。長い年月を剣に捧げてきたアリアとは、根本から違う。


 俺の剣は付け焼刃の、身体能力とスキルに任せただけの剣で、精神的な重みなどなく、体に馴染んでもいない。簡単に表せば、才能の剣。

 対して、アリアの剣は、修練と、それによって得た技術を活用した剣で、精神的にも物理的にも重く、体に馴染んだ剣、簡単に表せば、努力の剣。


 俺とアリアでは、剣の感覚が、覚悟が、理由が、重みが、違う。満たされているから剣を振る俺と、なにもないから剣を振るアリア。対照的な剣だ。俺の剣は未熟だという認識を、常に持つ必要がある。


 などと格好つけてみるものの、やはり調子には乗ってしまうのが俺の性ではあるのだが……。ないよりはましだろう。自惚れてはいない。


 数時間後。午前6時半。7時から始まる修練の前に、俺は一度自室に戻った。自室で寛いでいると、突然外で騒ぎが起こった。


 外を見ると、スライムが騎士団と戦っていた。騎士団側の先頭に立つのは、近衛騎士団長のギルダーさんだ。彼は俺より強いので、救援はいらない――という訳でもなく、ギルダーさんでは抑えきれていないので、俺も行った方がいいだろう。

 そもそも、彼はスライムといい勝負をしているように見えるが、実際は回避と防御に徹しているからここまで耐えられているのだ。


 俺は迷わず窓から飛び降りる。部屋のある棟の壁を蹴り、加速してスライムに向けて抜剣の構えを取る。


 俺がスライムに辿り着く瞬間、俺は右手に力と魔力を籠め、剣を抜きながら振った。高速の斬撃はスライムの一部を消し飛ばす。


「大丈夫ですか、ギルダーさん」

「あぁ。幸い、あ奴の攻撃力はそこまで高くはなかった」


 スライムはまだ生きている。そして、戦意を失ってもいない。俺は抜身の剣を構え、魔力をそこに集中させる。繰り出すは必殺の一撃!


「爆ぜろ! 純白の斬撃……<聖剣斬>!」

「<聖剣波>の斬撃を剣に纏わせた魔力・物理混合の攻撃か……!」


 スライムは生物ではないスライムは生物ではないスライムは生物ではない! 斬るのは怖くない、怖くない、怖くない! 守るためだ……!


 自分に言い聞かせる。スライムは元の世界では生物じゃなかった。だからスライムは生物じゃない。斬るのは怖くない。守る為だから。


 実際、剣で直接生物を斬るのは遠慮したい。精神的に来るものがある。出来るだけ斬りたくないのだが、俺が戦うのはアリアやその他もろもろを守るためだ。

 剣を振るわなければ守れない。故に俺は剣を振る。


「大丈夫ですか⁉ 動きが止まってます!」

「マジか……! ありがとございます、アリア様!」


 俺は動きが止まっていたことを自覚し、剣を構える。繰り返すが、俺が剣を振る理由は守る為だけなのだから、その目的くらいは達成しなければ。


「様だなんて余所余所しいですね!」

「立場を考えてください!」


 この騒がしい王女を守る為。俺は新しい技を使う。


「<神聖波>!」


 純白に光る魔力が渦巻き、1度俺の聖剣へと収束する。その光が刃の形に絞られ、鋭い刃となってスライムに刺さる。刃が爆ぜ、スライムの半身を消し飛ばす。今度は逆半身にもう1度。


 俺は殺したくはない。しかし、やるしかない。強力な魔力の塊がスライムへと打ち付けられる。魔力が爆ぜ、スライムがもう1破片になった時に声が響く。


《スキル・隷属を手に入れました!スキル・隷属 1度殺せる状況になった者を隷属させる》


 こんなところにちょうどいいスキルが。この前の恨みもあり、殺したいところも山々だが、俺直々に手を下したくないという願望のようなもので、俺はこのスキルを使う選択をした。


「スキル・隷属!」

「む、やられたのう……」


 聞こえたのは、場の緊張感を無視したような声だった。この声を発しているのはだれか……。年代的にはアリアが近そうだが、声はこんなのではない。


 俺は辺りを見渡した。するとある事に気が付いてしまった。なんと……スライムがいないのだ! 変わりに、見知らぬ少女が1人。声は恐らく彼女のものだろう。


「アンタか?アンタ、なんでここにいる?」

「何でも何も、先ほどお主に隷属契約されたではないか」


 隷属契約……もしかしてこいつ、スライムなのか?人化路線だったのか。やけに関わり合いが強いと思っていたら。

 人化したということは、色々とできることも増えるし、人化できるのなら王宮で、俺の部屋で暮らすことも可能か。かなり対処がしやすくなったな。


 そんなことを考えながら、俺はアリアとスライム、ギルダーさんや騎士団員達と共に王様へ報告しに向かうのであった。

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