第4話 勇者の剣

 騎士D(Lv.91)、E(Lv.98)、F(Lv.92)、G(Lv.95)、H(Lv.91)の4人の騎士がスライムの触手を斬り飛ばそうと剣を当てていた。騎士I(Lv.1――転職というものでリセットされており、実質的にはLv.101――)も剣を構え、スライムに斬りかかろうとするが、スライムに呪縛魔術らしきものを使われて一瞬で無力化された。


「やるしかないか……!」

「お願いします、勇者殿」


 俺はスキル:身体強化、触手、剣術、剣筋補正を発動させ、聖剣を構えてスライムの元へと走る。

 俺の触手がスライムの触手を防ぎ、スライムの吸収スキルを自動回避スキルで躱し、スライムに斬りかかるが……手応えがない。


《スキル・吸収、幻影を手に入れました! スキル・吸収 物理物質を吸収する。吸収上限はスキルレベルに比例する。スキル・幻影 幻影を発生させる。幻影は実体を持たない。幻影の数はスキルレベルに比例する》


「幻影か⁉」

「大丈夫ですか⁉」


 俺は必死にその場から離れると、本物と思われるスライムの触手が鼻先5ミリを掠る。

 後ろに気配を感じ、慌てて振り返ると大量の触手を出現させたスライムと大量の幻影が触手で連撃を仕掛けてきた。


「くっ……! スキル・幻影!」

「幻影のスキルを持っていた……?」


 俺が幻影を発生させると、俺は気配隠蔽スキルで気配を隠蔽し、より気配の強い幻影の方を本体だと思わせる。


 スライムは俺の真意に気づき、何もない空間―――正しくは見えない俺―――に向かって攻撃を仕掛ける。


 俺にはアリア様との約束がある……! 生きて帰るんだ!

 俺は聖剣の真の本当の力を解放した。聖剣からは純白の斬撃が放たれる。


 この説明を聞いた時には、本当の力ってなんだよ厨二病かよと思ったが、これを解放していると魔力を消費してしまう。確かに本当の力だな。


「<聖剣波>!」

「これが伝説の勇者の放った斬撃……!」


 スライムはそれに気づき、触手で対抗するが、触手は俺が放った飛ぶ斬撃とは別に俺が斬り飛ばし、邪魔をなくす。


 スライムは俺の斬撃を躱そうとするが、斬撃が掠った瞬間斬撃が爆ぜ、スライムの体が思い切り削られる。


 直接斬っていないので物理的な嫌悪感は感じないが、俺の技で生物―――尤もそうは見えないが―――の体が削られたことに、精神的なダメージを受ける。


 大怪我を負ったスライムは逃げていく。止めは刺していない――刺せていないが、一応俺によって、スライムは退けられたのだった。


 所変わって王宮。どことなくアリアに似た顔立ちの王様と王子様達に囲まれながら、団長は話をしていた。


「<聖剣波>。それによりスライムは退き、被害を最小限に抑えたのです」

「聞きたくないが、被害は……?」

「重傷者が6名いましたが、そのうち4名は同伴していた神官により治癒されました。残りの2名は……残念ながら」

「死者の冥福を祈ろうぞ」


 暫くし、死者の冥福を祈り終えると、団長が話を始めた。なんでも、勇者様の活躍は素晴らしかったとかなんとか。お陰で報酬を貰えることになった。


 アラナンド神貨5枚。一見すると少なく感じるが、街に売っていたうまい棒(のようなお菓子)が500万個買える値段だ。


 アラナンド神国には7種の貨幣がある。


アラナンド石貨 うまい棒1本分。

アラナンド鉄貨 うまい棒10本分。

アラナンド銅貨 うまい棒100本分。

アラナンド銀貨 うまい棒1000本分。

アラナンド金貨 うまい棒10000本分。

アラナンド王貨 うまい棒100000本分。

アラナンド神貨 うまい棒1000000本分。


 俺が貰ったのはアラナンド神貨を5枚だ。かなり長い間遊んで暮らせる。金額をうまい棒で表したのは分かりやすく、かつ最も他の物の物価に近いからだ。

 この大金で俺は、家を買おうと思う。


 部屋に戻った俺は、王宮図書館から借りてきた本を開いた。タイトルは、『人間と魔物・魔族の関係』だ。


『魔族は元々、魔物を操る人型種族で、分かりやすく表すのなら放牧をしている人だろう。

 彼らは強かったが、バラバラに動いていた。しかし、そんな日々は神国歴前7800年に終わりを告げる。その年、世界初の魔王が誕生し、5000年に渡って魔族を統制し、人間に侵攻したのだ。これは俗に、第一次魔王大戦と呼ばれている。


 人間は抵抗した。しかし、抗いきれず、当時人間を統べていた国であるアラナ教国の首都、アラナ教都に侵入を許してしまった。

 そこに、怒ったアラナンド神が現れ、魔族軍はアラナンド神降臨の衝撃で全滅した。これを人々は、『アラナンド神の奇蹟』と呼んだ』


 この出来事で、第一次魔王大戦は終わったらしい。第一次があるということは勿論第二次もあるらしいが、それは明日読むことにした。


「さて、もう寝るか……うぉぉ!アリアいつの間に⁉」

「今来たばかりです。今日の討伐、、倒せなかったみたいでしたが、追い払えてよかったです。スライムを追い払うのに犠牲者が二名って、かなりすごいですよ」

「あぁ……。そりゃどうも。もうそろそろ寝たいんだけど」

「では、私と寝ましょう!」


 唐突だなぁ……。寝るだけならいいか。寝るだけなら。寝るだけなら。寝るだけで済むならいいか。寝るだけで済むなら。寝るだけで済むなら。重要な事なのでもう一度言う。寝るだけなら。


「寝るだけなら」

「えぇ~。まあいいです!」


 そうして俺は意識を微睡みに落としたのだった……。

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