第2話 騎士団長との戦いと、王女様

 さて、騎士団長との勝負が始まったのだが、俺の友人の友人が言っていた。『剣道やってるおじさんは自分から前には出てこない』と。つまりいくらでも攻めろということ……にはならなかった。少なくともギルダーさんの場合は。


「遠慮なくいくぞい! 破ッ!」

「やばい、見えない!」


 ギルダーさんが気合を込めながら剣を一気に振り下ろす。気配を感じた俺は必死に後ろへ跳ぶ。俺のすぐ前を掠った剣が見えなかったのは、恐らく気配隠蔽スキルの恩恵だろう。気配が分かってよかった。


《スキル・気配隠蔽、剣術、自動回避、痛覚耐性、攻撃予測、剣筋補正、打撃耐性、気配感知を手に入れました!スキル・痛覚耐性 痛覚に対する耐性を得る。スキルレベルに比例して痛覚が軽減される。スキル・打撃耐性 打撃に対する耐性を得る。スキルレベルに比例してダメージが軽減される。スキル・気配感知 気配を感知する。隠蔽に対しても有効》


 攻撃に当たっていないのに耐性を得ているのは、なぜなのか。謎は深まるばかりだが、まあいい。今は勝負だ。


 俺は反撃に移り剣を振る。

 無論、剣術などやったことのない俺の攻撃は当たらずにギルダーさんからの反撃を受け、今度も必死にバックステップで躱す。

 しかし、無慈悲な2撃目。態勢を崩しながらもギリギリの所で回避。

 さらに3撃目までが付け加えられる。俺は必死に剣で弾こうとしたが、弾かれたのは俺の剣だった。反動でそのまま後ろに倒れこみ、俺は喉元に木剣を突き付けられた。


「儂の勝ちですね」

「そうですね……」


 やはりさすがは騎士団長である。圧倒的な技量とステータスで勇者を撃破。上位騎士パラディンの力は凄まじい……。


《レベルが2になりました! レベルが3になりました! レベルが4になりました……》


 翌日、今日も俺は訓練場に来ていた。明日はスライム狩りに向かうそうだから、今の内に鍛えていくとのことだ。


「お願いします」

「ああ、お願いします」


 今日はギルダーとの立ち合いをし続けるそうだ。格上と戦うとレベルが上がるから。また、いつかは俺がギルダーの格上になる事で、無限に二人の戦力を上げていこうという目論見もあるらしい。他の騎士は放置だ。


 早速、俺とギルダーさんは訓練という名の模擬戦を始めた。


 何度も模擬戦を繰り返した俺のレベルが23になっていた。そして次の模擬戦は、本日最後のギルダーさんとの模擬戦だ。


 俺は剣術、身体強化、剣筋補正、気配隠蔽のスキルを発動しながらギルダーさんへと斬りかかる。

 ギルダーさんは思いっきり後ろに跳ぶが、俺の身体能力の恩恵で剣筋に捉えられ、呆気なく吹き飛ばされた。手加減をありがとう。


《スキル・怪力を手に入れました!》


「勇者殿、レベルは何レベルですか?」

「23とあります」


 ステータスを展開してから公開する。


(省略)

筋力:2300

耐久:2300

速度:2300

器用:2300

聡明:2300

魔力:2300

スキル:剣術Lv.3、身体強化Lv.3、攻撃予測Lv1、剣筋補正Lv.3、自動回避Lv.1、千里眼Lv.5、気配隠蔽Lv.3、怪力Lv.1


「………………………………………」

「ね、やばいでしょう?これってどうなんですか?」

「歴代勇者最強のステータスじゃ」

「他の勇者はどうだったんですか?」

「いるが、全員Lv.23の時は2000~2100程度じゃった」

「スキルがやばかったんだろうな、多分」


 そう、恐らく他の勇者の先輩方はステータスチートではなくスキルチートだったのだろう!

 俺はステータスチート……いや、成長チートか? どちらにせよ、歴代勇者とはタイプが違うからな。ステータスが高いのは勿論のことか。


 俺はギルダーさんと別れ、自分の部屋に戻った。この世界に対して基本的に不満は特にないが、一つだけ、いや二つだけある。


 一つ目。ゲームがないこと。ゲームとは元の世界では生きる糧として俺の生で活躍して貰っていた。これがないのは不満だ。


 二つ目。ラノベがないこと。この世界は結構テンプレ通りに進むから、王道物のラノベが欲しい。後、単純に読んで楽しみたい。


 しかし、ないものねだりをしてもしょうがないよな……。俺はゲームとラノベに親しみを寄せながら、布団へ入った。


 翌日、俺は目を覚ました。時間は4時半だった。やる事も無いので、庭へ向かう。そこでは、王女様と思しきセミロングの金髪をなびかせ、透き通るような碧眼で正面を向いて、俺より年下と思われる少女が剣を振っていた。


 解析スキルで解析すると、所々無駄な所に力が入り、ブレてしているが、基本的にはうまい。確実に俺よりはうまい。ちなみに……胸は、服の上からギリギリ存在を認識できる程度だ。


 俺は、なぜこんな時間に庭にいるのか、王女様に聞くことにした。王族ならま偉そうにだ寝ていそうなものだけれど……。


「剣術の練習ですか?」

「っ!勇者様……?なんでこんな時間に……」

「目が覚めてしまって。お上手ですね」

「私は、第13位王位継承権を持っているんです。でも、期待はしていません。第13位ですからね……。

 王位に就けないと、第13位継承権程度の王族なんて何もできないじゃないですか。この国の貴族って、八割がクズなんです、だから貴族に嫁ぎたくないんです。我が儘とはわかっていますが、冒険者を目指して毎日ひたすら剣を振っているんです。冒険者養成学校でも半端者扱いですが」

「……きっと、いい冒険者になれますね」

「ありがとうございます。お陰で吹っ切れました」


 俺、何も言ってないんだけど。これが最近のなろう小説で話題の『チョロイン』なのか?容姿としては可愛いのでいいが。


 いや、自惚れるな! 今ので落ちたと思うなよ! あれは、単純に応援してくれてうれしかっただけだ! きっとそうだ!


 よくわからないコメディを一人で繰り広げるのを止め、俺も素振りをするかと考えた俺は剣を鞘に入れたまま前に向け、構えた。構えくらいはギルダーさんに教わっている。


「俺もやるか」

「そっちが素ですか? 出来ればそっちで喋っていただけると嬉しいです」

「あ、ああ。俺はいいけど、王位継承権持ってる人に敬語なしっていいのか……?」

「勇者様なら問題ないと思います。だって世界の救世主ですよ!」

「俺、まだ何もしていないんだよな期待が凄い割に」

「いつか活躍すると信じていますよ」


 彼女は俺に対して、恋愛感情まで行かなくとも好意は持っているのだろうと思った。

 が、メイドがそんな感じになって少し後の日の夜殺され、死に〇って初期状態に戻る無限ループが発生した小説だってあるのだから、迂闊に自惚れるな。ゼロから始めてしまう。


 下らない雑念を脳の隅へ寄せ、俺はひたすら素振りをする。ズルだが、剣筋補正スキルの魔力で、剣筋が純白に光っている。スキルを使っている間は魔力が光となり、可視化される。この色が――純白が俺の魔力の色だ。


「……」

「綺麗……」


 ここは、『貴女の方が綺麗ですよ』とキザったらしく格好つけた方がいいのだろうか……。やはりくだらないことを考えながら、俺は王女様と共に庭で朝――大体7時過ぎまで剣を振り続けた。

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