拾 熱狂する技術と堕とし合い

半妖は眺める

技術と奉仕の混合を


ある劇場での事

豪華絢爛な造りで

幾多の名士を排出した

言わば芸能の登竜門


我こそはと

様々な演者が集まり

自らを披露しては

歓声が止まなかった


他の劇場と違い

一風変わった料金を

独自に設けていた


誰でも自由に出演でき

誰でも無料で観劇できる


その代わりに

《心付け》と云う券が

観客に売られていた


観客は買い求めたそれを

気に入った演者に贈り、


演者は贈られたそれを

劇場へ差し出し、


劇場は手数料を引き

演者へ換金する


そのような制度だ


最初は、純粋な

演者への支援だった


誰でも気軽に己を試し

通りがかった観客から

多少の気持ちを頂く事で

演者への励みとなり

更に技術を高められる


そんな切磋琢磨の場をと

初代支配人の配慮だった


しかしそれだけでは

劇場は立ち行かぬ


清貧の演者からは

取る事ができぬと

観客からの心付けを

劇場を通す事にした


これであれば

数多くの観客から

少しずつの

寄付程度で済む


全ての人に

芸能の素晴らしさを

広める崇高な場所

その筈であった


しかし人とは

際限なく貪欲なもの

その後はどうなるか


私は眺めた


劇場は思うよりも

盛況を見せたのだ

こうなれば人は

欲が湧き出るもの


《心付け》を多く使った者を

「感謝の意を込めて」

劇場に名を貼り出し

英雄扱いとしたのだ


観客の一部はそれに憧れ

もしくは嫉妬を湧かせ

より「貢献」しようと

熱狂したのである


そうなると劇場には

多くの金銭が落とされた


それとは別に

大きな流れが

演者の中に生まれた


大勢の演者達の思想が

大きく二つに別れたのだ


一つは

「私を素晴らしいと思うなら」

「形にして示してくれ」

「それが支援というものだ」

「劇場の為にもなる」


一つは

「無料で観れる場所なのだ」

「私が出演する時は必ず来い」

「金銭を使うは只の自己満足」

「私を崇める事こそ支援だ」


劇場を利用する者達は

其々の思想に近い者で結託し

違う思想の集まりを

攻撃するようになった


一方を

金で芸術を汚す者と


一方を

金も使えぬ偽善者と


ああ、人とは

立場によって

こうもお互いを

堕とし合うものか


人の技術など十人十色

芸術の表現など三者三様

愛情表現など千差万別


支援する行為など、所詮

愛情という名の自己満足


それを頂く身が

やり方を指図する


それを増長させる

激化する環境


面白き事よ


劇場は当初の目的を忘れ

演者は切磋琢磨を忘れ

観客は感情の豊かさを忘れた


互いが互いを認め

技術を披露し努め合い

芸能を更に飛躍させ

それに感銘する


その為に作られた

劇場であったのに


人とはいつの世も

他より勝りたいものか


そして自らの思想に

人を従わせたいものか


人とは誠に面白い


次へ行こう

次の世を眺めよう


この世界には

既に用はない

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