拾壱 真意と傲慢の価値

半妖は眺める

協力と傲慢ごうまんの境目を


ある国での事

一人の男がいた

発想力に非常にんで

何事も努力でこなした


その国の子供達の間で

流行を起こしていた

微妙にずらした絵を

何枚も重ね めくり

動く様に錯視さくしする遊び


男はこの遊びに

多大なる興味を抱いた


これを応用すれば

全く新しく画期的な

宣伝技術になるのではと


男は早速取り掛かった


連続的に大量の絵を描く方法

一部を意図的にずらす技法

それ以外の部分は

少しのずれも許さぬ努力


男は長い年月を費やし

独自のやり方を追求し

遂には〈動き絵〉という

技術と相成った


男は 己の技術に

改めて確信を持つと

国で一番有名な

俳優の元へ訪れた


その俳優をして

最高の技術を持って

動き絵を作ると

話を持ちかけた


「これは只の絵ではなく」

「貴方の演技を再現し」

「宣伝できる動き絵だ」

「無料で提供しよう」


「その代わりに」

「作者である私の名を」

「宣伝して貰えないか」

「互いの利益になろう」


話を聞き見た俳優は

その技術に感嘆かんたんすると

是非 互いに励もうと

協力関係を結んだ


男は胸を踊らせた

これで上手く広まれば

実在の技術として

認められるのだ


感銘を受け 志す者が現れ

技術自体を広められる

己を筆頭とした

新分野の確立が出来る


なんと未来ある事か

新しい人の進歩


しかし人とは

愚かな過ちを犯すもの


その後どうなるか

私は眺めた


俳優の希望通り

男は動き絵を作成した

あまりの出来の良さに

俳優は周囲に広めた


しかしそれは

やがて自慢へと変わる

次第に欲望は増加し

多く注文をつけた


男はそれを

己への試練と捉え

全てに応えていった


味をしめた俳優は

己の姿・演技に執着し

男の名を広める事を忘れ

遂にはこう考える様になる


「男は著名である私の為に」

「無料で動き絵を作るのだ」

「この私に献上する事を」

「名誉だと思っている」


なんという事

履き違え

勘違い

傲慢ごうまん


俳優は作られる事に慣れ

男が自分の為に

動き絵を作る事を

当然としていたのだ


そしてそれを吹聴し

俳優の仲間にも広まった

「無料で動き絵を作る者」

「言えば何でも作る」


なんという幼稚さ


最初に交わしていた

互いに励むという意思は

既に忘れ去られていた


男はそれを聞くと

冷めた目に変わった


己が長い間かけて

磨き上げた技術を

何だと思っているのか

最初の協力の意識は

何処へと消えたのか


男は決意した

俳優を切り捨てよう


名高く無くても

同志となれる者

技術を高め合える者

純粋に進化を志す者と

同盟を作り 励もうと


最後の機会にと

俳優に手紙を出した


『この手紙は貴方を試す為だ』

『独自に期限を設ける』

『それまでに確認しない場合』

『今後一切の提供を断る』


俳優はというと

手紙の差出人を

確認する事も無く

届けられる恋文に混ぜ

放置していた


後日 男から連絡が無い事を

不審に思いつつも気にせず

手紙を適当に見ていた所

男からの手紙を発見する


顔を真っ青にし

慌てて擦り寄るように

男に返事を書くが

男は既に住まいを移し

他の国で活躍していた


人とは進化を求めるもの

しがらみを自らで切り裂き

前を見る力が実を結ぶ


こうなるから

人とは興味深いのだ


次へ行こう

次の世を眺めよう


この世界には

既に用はない

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