漆 作りし物の共有意識

半妖は眺める

創作と共有の心情を


ある街でのこと

一人の音楽家がいた

己の内なる音を紡ぎ

音を奏でる石を作っていた


荒々しく激しく

腹に来るような

魂を乗せるような

叫ぶような音石


聞くものには

感情を呼び起こす

激情を

激動を


そんな彼には

敵も味方も多い

それを気にしながらも

彼は信じる道を貫いた


私はその街で

流浪の詩人としていた

彼の音を聴いた時

思わず詩を生んだ


私が心を動かすのは

これが二人目だ

何故なんだ

名も無いこの私が


私は音楽に惹かれる

そんな性質なのだろうか

自分の事が解らない

解りたくもない


己を理解し自我を表せば

絶対神に潰される

前世の記憶が蘇る

いや、考えぬ


生んだ詩を紙にしたためた

それを音楽家の前に落とし

そのまま去ろうとしたが

音楽家が声を掛けてきた


「あなたの詩を見た」

「俺の音を付ける」

「すぐに出来上がる」

「少し立ち止まっていてくれ」


何を言っているのか

理解できなかった

何故だ?

私を何も知らぬのに?


『お前を見て書いた物だ』

『私の物では無い』

『好きに使えばいい』


彼は理解できない様子で

きょとんとした顔になった

綺麗な白黒に仕上げた音石を

私の前に差し出した


「あなたの詩を音にした」

「差し上げる」

「受け取れ、そして」

「歌ってもらえまいか」


何故だ何故だ

理解がついて行かない

何故だ何故だ

私の事など知らぬだろう?


『私は歌など嗜まぬ』

『お前が作ったならお前の物だろう』


彼はまた不思議そうにし

私の手に石を持たせた


「それを言うなら」

「あなたも詩を書いたろう」


『私は』

『違う』


「あなたが詩を書き」

「俺が音を付けた」

「この音石は」

「俺とあなたの物だ」


『そんな』


「俺が先に歌う」


『待ってくれ』


「だからあなたも」

「時間をかけてもいいさ」


『共有する気は無い』


「待ってるぜ」


何故だ何故だ何故だ

私は世を見るだけの役割


それなのに


何故嬉しさが

込み上げる?

何故所有したいと

湧き上がる?


私はそのまま消えた

心が決まった二ヶ月後

別の姿に変化し

彼の前で吠える様に歌った


「ありがとう」

「聴こえたよ」

そう聞こえてきた


次へ行こう

次の世を眺めよう


この世界には

既に用はない


この音石は持ったままで

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