陸 価値観と仲間意識の狭間

半妖は眺める

我儘わがままと自意識の境を


ある繁華街での事

先の給仕娘と歌姫と支持者の件

立ち去るはずが

追いかけられた


なんとかして

私を仲間に取り込みたいらしい

変化で人の世を眺めるだけの私

なんの意味もないのに


自分達の被害意識で

他人を追い込む事に

なんの躊躇とまどいもない

『幸せな者共』


欲しいのは力ではなく

仲間意識を共有する者なのだろう

それは何になるのだろうか

私には理解が出来ない


先に、私が言い放った言葉

「今のお前達は醜い」


給仕娘は飲み込み

己を責め立てた

そして前を向き

己磨きに精を出している


好きにすれば良い

私には関わりが無い事


歌姫はすがり付いてきた

何か訴えたい事があるらしい

聞く気は無いが

わめかれれば嫌でも耳に入る


「私は何もしていない」

「何が悪いか解らない」

「解らないから謝れない」

「私を理解して欲しい」


私は歩を進める

早く次へ行き

人の世を眺めよう


「あなたなら解ってくれると思った」

「何故味方になってくれないの」

「私はあなたに裏切られた」

「この私が信じて感情を訴えたのに」


何を言っているんだろうか

理解がついて行かない


何故なぜ私の支持者にならないの」

何故なぜ私の味方にならないの」

「この私が何度も発している」

「応えないのはあなたが間違っている」


人とはかくも可愛くて

人とはかくも脆弱で

人とはかくも愚かなものか


私は一度だけ立ち止まり

酷く冷たい目をした女性へと変化し

言葉を返した


「貴女の世界は偏見でできている」

「ならば己の道を信じて進め」

「己の足だけで立つ強さを」

「貴女は一体何をしたいのか考え直せ」


歌姫は尚もわめ


「私はあなたに裏切られた」

「私の事を分かっていない」

「この私が訴えるのだから」

「あなたは受け入れて当然なのに」


嗚呼ああ、わからない

本当に何を言っているか

全くわからない

どうしたものか


価値観の違いと言う他

何も無いのだろう


これ以上は無駄だ


私は突如として走り出し

繁華街の片隅に隠れた

歌姫の視界にいないことを確認し

黒い野良猫に変化すると

暗闇に溶けていった


次へ行こう

次の世を眺めよう


この世界には

既に用はない

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