参 猜疑と愛情の秤
半妖は眺める
人の
ある町でのこと
一人の男がいた
とてもよく笑う
豪快な男だ
その町は、隣の町と
冷戦をしていた
交流や通行さえも禁止
冷戦の原因は単純
町長同士の仲が悪くなった
それだけだった
その男は、
町同士の交流が盛んだった頃
隣の町のある女に恋をしていた
そしてその女も男に恋をしていた
交流を禁止された今
連絡を取る手段が無い
悩みに悩んだ末
お互いがわかる暗号を使い
周囲へは分からぬ様
愛を育んでいた
だが、秘密を持つと
誰かに胸の内を叫びたい
そんな衝動に駆られるのだろう
町の者ではないと悟った男は
少しの時間を、と私を連れ出し
教会の片隅でボソボソと話した
私は眺めるだけの存在
一通り聞くと
もう忘れた、と呟いて
その場を去った
しばらくして
またその町へ立ち寄った時
その男が近づいてきた
「誰かに話したのか」
私は話していない
そう伝えると
またボソボソと話した
周囲へは漏れていないが
彼女が不安がっている
あちらの街で、誰かが鳥を使い
密かに交流していると噂があると言う
「本当に話していないのか?」
そう問いてくる男に私は言い放った
「興味がない事の
「私にとっては時間の無駄だ」
男は
「そうか・・・信じよう」
「ならば、なぜ」
私は再び言い放つ
「人がする事には必ず跡は残る」
「致し方ないことだ」
「だが、隠しているそれは」
「果たして
男はハッとした様に顔をあげる
「私は愛しているだけだ」
「一体、何の罪なのだろう」
ああ、なんと可愛い事か
いつもは豪快に笑うその男は
己の疑問と想いに
揺れに揺れている
私は最後に言い放つ
「己の心と周囲の状況」
「望まぬ環境と抱く愛」
「筋を通したいのはどちら?」
後ろを向いて去った私に
もう、その男の表情は分からぬ
私には関わり合いのない事
町同士は未だ仲違い
しかし下々の交流はあると言う
あの男が何かしたのかは
私には知らぬ事
次へ行こう
次の世を眺めよう
この世界には
既に用はない
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