肆 美しき独占欲と忠犬
半妖は眺める
人の独占欲と愛情を
ある田舎での事
以前も立ち寄った風景
吟遊詩人のいる場所
彼は歌い続けていた
醜い半妖が少女に変化し
聞きに来るのを待っていた
自分を励ます暖かい言葉が
彼の胸に残っていた
吟遊詩人は知っている
少女が闇の半妖だという事
それに目を背け
ずっと賞賛を待っていた
私は気まぐれで立ち寄る
少女の姿は取らない
代わりに別の変化をした
人語を解する犬へと
そして高らかに吠える
吟遊詩人へ向かって
忠誠を誓うように
それが欲しいのだろうと察したから
吟遊詩人は歌い続け
やがて噂は広まり
大きい祭りの舞台に誘われた
「
そう思いながらも
認められた興奮と
更なる
誘いを受けることとした
「少女の半妖よ、見ているか」
「聞きに来てくれ」
「私は肯定の為では無く」
「前に進むために歌う」
犬の姿の私は
しばらく傍にいる事にした
ただ見届けようと
吟遊詩人は喉の限り
練習を重ねた
人に見られる事無く
傍らには犬の姿の私が
吟遊詩人が
少しずつ優しく吠えた
「とても素敵です」
「貴方ほどの人はいません」
「心配しないで」
「楽しんで下さい」
吟遊詩人は
少女の私に向ける顔を
犬の私にも向ける
「ありがとう、頑張るよ」
「皆を魅了してみせる」
そして祭りの当日
手が震える吟遊詩人
犬の姿の私は
ぺろりと吟遊詩人の手を舐める
「大丈夫です」
「ありのままを
吟遊詩人は
「なぁ、君は」
「あの半妖なのだろう?」
「少女の姿をしていなくても」
「居てくれたんだな」
私は首をかしげ
人語が解らない振りをした
そして吠えた
「さあ、行きましょう」
吟遊詩人は
甘く広がる声を更に響かせた
人々は踊り、聴き入る
魅力され、
演奏が終わった
吟遊詩人は魂が抜けたように歩き
裏側へと戻ってきた
そして犬の私を抱きしめた
「もう離れないでくれ」
「私のものになってくれ」
私はぺろりと吟遊詩人の頬を舐めた
「もう大丈夫ですよ」
そう吠え、
人目の無い所で変化をといた
私は
輝く者には似合わない
次へ行こう
次の世を眺めよう
この世界には
既に用はない
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