第13話 終わる日常

ただの黒い丈夫そうな布から、どうしてこんなに愛らしい作業服が作れるのだろうか。ステラは姿見の前に立つ自分の服装を見て、自分が魔法にかけられているような錯覚に陥いった。

質素な黒綿のサテン生地で出来た詰襟のロングワンピース。白い襟口はホックで後留めになっており、袖を腕にたたんで捲けるように袖口の大きさをボタンで調整出来るようになっていた。肩を回しやすいように膨らみでゆとりをもたせており、スカートの下にはペチコートを履かされているため足元の裾の動きが気にならない。

動きやすさを重視したデザインの作業服を頼んだハズなのに、鏡に映るその姿からは信じられない程の気品と女性らしさを感じさせる。

「気に入って貰えてよかったわ」

「まだ仮縫いだから、少し動いてみて違和感のある所があったら教えて。今なら調整できるから」

「はい、奥様」

ステラはアデルの言葉に思わずそう返した。

「奥様はまだおかしいでしょう。そこはお嬢様の方が良いと思うわ」

「申し訳ありません、お嬢様」

「すっかり取り込まれたなお前」

「……うッ」

シャルの言葉に対し、未だにどんな言葉遣いで返事をしたらいいのか分からず言葉に詰まる。未だに目が合ったり、手が触れ合うと恥ずかしくてどうしたらいいのか分からなくなる。色々と自覚して受け入れて、経験したにも関わらず未熟な自分は初心なままだ。時間がたって慣れてくれば、自然と戸惑いも無くなっていくだろうか。

「ステラ、そこの本棚にある装飾品の本を取ってくれるかしら」

「えっと」

背表紙を順番に眺めるステラは、目を細めて凝視し顔を近づけ書棚を覗き込む。

「そう言えばお前、以前から気になっていたんだが。目を細めて顔を近づけるのは癖なのか?」

「癖と言うか、ワタシは遠くにある物が少し見え難いだけだ」

「それは近視だな。眼鏡をかけないのか」

「そんな物を掛けていたらワタシは目が悪いです、と周りに喧伝するようなものだろう。老人ならいざ知らず。普通は自分からそんな弱点を晒すような真似はしない。それに眼鏡なんてモノは書類仕事をする文官が使うものだぞ。ワタシのような外で体を動かす人間が持つものではないな」

「それがこの国の文化か。ガラスは一般に普及しているのに、眼鏡がないとは不便だな」

「変わっているのね。自分がモノを視れるようになるよりも、自分がどう見られるかの方が大事だ何て。職業や年齢にかかわらず、わたしたちの国では、視力が低ければ眼鏡をかけるわ。眼鏡をかけていることで目が悪い弱点があるだなんて、普通は考えないものよ」

「肉体の機能不全は、オドを使っても補整できないからな。ステラの目が不便なままだと困る。作るか眼鏡」

ステラの様子は明らかに以前よりも視力が落ちている。初めて会った時は、顔を近づければ相手を判別出来ていたが、今は目を細めてピントを調節する必要があるようだ。思い返せば一緒に買い出しに行った日にも、先ほどと同じように顔を近づけて、目を細めて文字や値札を確認していた気がする。眼病にかかっているのかもしれない。あるいは拷問による後遺症で視力の低下したのか。どの道、医者に診てもらうべきだろう。

「いや、いい。要らんぞ、そんなもの。恥ずかしいじゃないか」

「ふふ、嫌がるのなら余計、ステラには可愛い眼鏡をかけさせてあげないとね」

「お嬢様!?」

「シャル!アンタに客だよ」

階段下からエステルの呼び声が聞こえ、シャルは肩をすくめて1階へ降りていく。以前からゾンザイな扱いだったがあの夜以来、さらに扱いが辛辣になった。孫娘との関係をどうするのかと問いただされ、未だにはぐらかしている所為だ。


来客はシャルが期待した人物ではなかったが、それでも笑顔で対応する。

「こんにちはアンドレさん、職場以外で会うなんて珍しいですね。今日は何の御用でしょうか?」

二日ぶりに見た面倒見がいい直接の上司でもある巨漢は、職場でも見せたこともない緊迫した様子だった。無言で佇む彼の表情にただならぬ気配を感じ、シャルは笑顔を消した。

「ちょっとお茶を逸れてくるので、そちらの席で待っていてください」

寒さ対策にショウガ入りの紅茶を目の前に出されたアンドレは、小さく手で謝意を伝えエステルに奥へ行ってくれるように促す。

シャルと二人きりで話がしたことを察した彼女は二階へ上がり、最近メキメキと裁縫の腕が上がったアデルの自慢話に花を咲かせることにした。悪いことばかりじゃないが、この男がこの家で暮らすようになってから身の回りで様々なことが起きるようになった。まるで止まっていた時間が動き出すかのようだ。孫娘の件に関してはもう何も言うまい。

アンドレは自分にだけ出されたティーカップとシャルを見詰めて話をどう切り出すべきか悩んでいるようだった。

「言いにくいことが何かあったんですか?」

「ああ、その、昔の仲間たちが死んだよ」

「ご愁傷様です」

「ああ、ありがとう」

「ゼリエ公爵はまだ治安維持組織を組織できていないハズですが」

「魔物に殺された。以前からこの町の近辺にドラゴンが潜んでいると言う噂が流れていた。最近まで誰もそんな噂を信じちゃいなかったんだ。オレたちが採掘している現場には、昔ドラゴンが住んでいたって話は知っているだろう。それで何処かにそのドラゴンの子供がいるんじゃないかって噂は後を絶たなかった。けど今回は違った」

迷いを呑み込むように一度、紅茶を含んで喉を潤す。

「今まで誰も見たことも話を聞いたこともない魔物が現れた。本当にアレがドラゴンなのかは分からん。ディルはオレが知る冒険者の中では最強の剣士だった。そんなアイツが仲間たちと一緒に戦って負けた」

アンドレの視線から逃げるようにシャルは目を閉じた。普段の困ったような笑みや何も考えていないような表情も、彼の顔にはない。人懐っこい媚びた大型犬を思わせる顔立ちから、完全に表情が消えていた。それは言外に拒絶の意を表しているのだと分かる。それでもアンドレは言葉を続ける。

「この通りだ。お前しか頼れる人間が居ない。こんなことを言えた義理ではないのは分かている。代わりにどんなことでもする。お前が何者かは知らんがディルよりも強い。その力を貸してくれ」

シャルの隣に来て頭を下げようとするアンドレの肩を押し返して下げさせない。

「仇討ちなら他所を当たってください。あと頭を下げる相手が違います」

「シャルはわたしのものだから、貸して欲しいならわたしに頭を垂れて乞いなさい」

シャルにシナモンティーとミルクをサーブしに来たアデルが会話に口を挟んだ。

「別にオレはアンドレさんの仲間から嫌なことされていないので、謝るなら牝犬……じゃなくてステラに謝ってください」

「分かった。それが筋なら、そうする」


状況を説明されたステラは、シャルが自分の尊厳を尊重していた事実に驚いた。射幸心を煽られたもどかしい気持ちで、シャルの袖を掴み、自分より背の高い巨漢の頭頂禿げを見下ろすという経験をした。

「ステラはどうしたいの?シャルの身体は一人のものじゃないから、貴女の意見次第で彼の希望にそってあげてもいいわ」

「えっ?」

アデルの言葉は晴天の霹靂だった。浮気相手認定されて半ば制裁を受けるような形で、侍女として召し抱えられることになったステラ。人を惹き付ける美貌ゆえの、カリスマと云うべきか彼女の言葉には誰も逆らえない。そんな主人が、下僕の言葉で自らの意思を変えるとは思えなかった。あの夜の以来、他人を自分に従うかそうでないかで切り分けて、従う人間を好悪の気まぐれで弄ぶ貴族令嬢。そんな印象があった。今日だって人を着せ替え人形にして、制作中の服飾品を試着させられていた。

「ワタシは私情を排して言わせてもらえば、冒険者として魔物が蔓延るのなら、それを除くべきだと思う。それが正しい在り方だ」

「シャルが死んでもいいの?」

またしても意外な言葉だった。得体のしれない強さを持ったこの男が死ぬ?そんな事実が全く想像さえしなかった自分に気づいた。

シャルは日頃から過酷な重労働をこなせる身体能力と、次の日には元気に働き続けられる体力の回復能力を発揮している。それらはシャルが日常的に無意識下で、オドによる肉体強化と機能向上を行っているからこそ可能な芸当だと、ステラやアンドレには分かっていた。

オドとは生命力の源、精気、生物に備わる体内魔力のことだ。そして体内魔力を消費して、人並外れた体力と身体能力を発揮できる人間は数多くいる。血筋に大きく左右される魔術の才能と違い、誰でも鍛錬次第で力を行使できるようになるためだ。冒険者や騎士、軍の精鋭兵になるには必須の能力だ。そしてオドを使用出来るようになるには並々ならぬ努力と、特別な訓練を受けなければならない。つまるところオドによる肉体強化や身体能力の向上が可能な技術をもつ人間は、すべからく何処かで戦闘訓練を受けた人物であることの証明となる。

 日頃の仕事ぶりをしれば、シャルが自分たちよりオドの使用技術を高い練度で修めている上、肉体的にも恵まれた体格と身体能力を備えていることは直ぐに分かる。更にステラの攻撃を簡単にいなし、飛び道具による死角からの攻撃を難無く躱す。実力者のディルの背後を容易く取る。そんな自分たちよりも遥かに高い戦闘能力を持っているシャルが死ぬ。そんなことはまったく考えられなかった。

「在り得ないでしょう。そんなことは」

「……いや、オレは普通に死ぬよ。不死身の化け物じゃあるまいし」

袖を掴んでいるステラの指を払い、目を閉じたままシャルは腕を組む。

「今のオレより強い人間なんて五万と居たし、魔物については考えたくもない。そもそも訓練の成績が優秀だからと言って、実戦経験皆無のオレが人間相手ならまだしも、初戦で正体も分からない魔物を相手に戦えるとは思わないで欲しい」

「シャルはもともと軍人でも、騎士でも、冒険者でもないもの。いくら人より強くて、戦う技を身の着けていてもね。戦士としての心がなければ戦えないのよ」

アデルはシャルの言葉を引き継ぐように続け、さらに付け足す。

「もともと気性が大人しくて従順で、争いを好まず臆病で人に対する警戒心も低くて、懐……情に絆されやすい人なの。やれと命令されれば嫌なことでもやるから性格的にも無理をさせたくは無いわ」

「人を犬や馬の種類の特徴みたいに評価するのを止めてください」

人を犬扱いする癖に、この男は自分が犬のように言われるのは嫌なようだ。けれど確かに何も考えていなさそうな顔は、能天気な大型犬を思わせるものだ。

「アタシはアンタがやれると思うなら、やって見た方が良いと思うけどね」

いつからかカウンターの奥で洗い物をしていたエステルが口を出した。

「どうやら相手はドラゴンらしいんだろ。アンタはソレに詳しいんだ。何も無理に魔物と戦う必要はないさ。まず相手がどんな奴か確かめてみて、やられそうなら止めればいいじゃないか」

「もしドラゴンだとしたら、殺してもいい種類かどうか見極めるくらいはしてもいいですけど。ダメなヤツだったら止めます。あと自分より強い魔物だと判断したなら逃げますかね、オレ」

「賛成2,反対1、シャルは棄権でいいかしら?」

「いつも通りそれでいい。オレに意見は無いよ」

「シャルお前、それでいいのか?」

「ええ、自分で物事を決めるのは苦手でしてね」

「民主主義により、不本意ながらシャルが魔物討伐に参加という方向で話を進めましょうか」

「わたしは裁縫の仕上げに入りたいから退席させてもらうわ。ステラ、服を脱いで」

「はい、じゃあ二階へ」

アデルは珍しく仏頂面を作ってそのまま席を立ち、ステラを引き連れて行ってしまう。シャルは既に何か別の事を考えだしているようで、窓の外見詰め顎に手を当てていた。

「取り合えず、最低限の武器と防具、あとは戦えそうな冒険者を集めましょうか?魔術師と剣士に心当たりがあります。頼みを聞いてくれるかどうかは分かりませんが」

「シャル一人を危険な場所へ行かせる訳には行かない。ワタシも」

「お前はまず医者に行け。眼鏡云々は置いておいても、視力の低下は明らかに異常事態だ。最悪、失明するぞ」

「いやしかし」

「命令だ。ロクに目の見えないお前じゃ使い物にならない」

「……了解した」

「ステラ、返事は承知いたしました、ね」

「承知いたしました」

「エステラさん、ステラの付添を頼めますか」

「ああ、後で事情は訊かせてもらうよ」



ゼリエ公爵の別邸を二人の男が訪ねて来た。忙しいから追い返せと言ったが、使用人はパトリックと美咲の名前を出したのでお知り合いではと言い興味を持って訪問者の名を訊くと。

「チャールズ・ハンガーさん、お久しぶりです。いずれこちらからお尋ねしようと思っていたのですが、急に仕事が立て込んでしまいまして」

「前に会った時とは全然違う格好だね!ビックリしちゃった!」

「お褒めにあずかり光栄です。お二人もご壮健の様で何よりです」

「オレはイヤ、わたしはアンドレ・コルセです。彼と同じ職場で働いている者です」

巨体と窮屈そうに縮こませて、所在無げに挨拶するアンドレ、貴族の屋敷に馴染む衣服を着たシャルはすでに寛いでいる。出された紅茶を優雅に飲む様は、テーブルマナーも修めているようだ。みすぼらしい服で荷馬曳きの重労働をこなして姿からは、当然想像できない。

「今日は彼の頼みを聞いていただきたく参じました。巷で魔物が出現した噂をご存じでしょうか?」

「ええ、存じております。もともと我々が発見したモノですから」

「何だと!?それじゃあ」

「バグシャスと言うドラゴンを探していたら、アレを見つけた。魔素の属性が同じものだったが、事前に聞いた特徴と食い違っていた。だから経過観察を命じられ、使い魔を監視に付けて待機していた所だ。だと言うのに、怖いもの知らずの連中が蜂の巣を突く様な真似をして」

「アイツが死んだのはアイツらが悪いって言いたいのか!?」

「自業自得だろう」

「パトリックさん、監視はいまも続いていますか?」

「ああ、当然だ。朝昼晩と三交代制で野鳥や森に獣どもにやらせている」

「流石はその御年で宮廷魔導士となられるだけのことはありますね」

「褒めても何も出ないぞ。煽てられても戦場には出ない。オレの専門は探索と解析だ。戦闘は専門外だ。そして今は残留魔素を培養して、特殊な魔石を精製する研究をしていて手が離せない。魔物退治の仲間を探しているなら、他所を当たってくれ」

「あっ!それならワタシやりたい、やりたい!魔物退治!パトリック君には待機命令が出ているけど、ワタシには出ていないんだ。だからワタシ一人なら参加できるよ」

「だそうだ!コイツを連れていけ。あの死んだ剣士よりも余程強いぞ。まぁこの町にはコイツよりも強い拳闘士がいるようだがな」

「拳闘士?素手で殴り合いするアレで、刃物を持った相手より強いんですか?そんなバカな」

「本当だよう!無茶苦茶疾いの!フットワークがね、もうホントヤバい、感動的な位ヤバい!ステップのタイミングが読めない上、こっちの刀を振るスピードに合わせてカウンター狙ってくるんだ!超強い!マジ強い鬼強い!多分、ドラゴンとかよりヤバい人間だよ。魔族でもあんなの居なかったし。でもいつか負かす!」

「生身の人間を相手に、その武器で戦たんですか?」

「うん、そうだよ」

「虎徹さん、それでその再戦に向けてどんな対策を講じているんですか?」

「うん、取り合えず今はもっと早く刀を振れるように基礎から鍛錬を」

「差し出がましいですが一手、お手合わせ願いますか。実際に人を相手にして見えて来るモノもあるでしょうから」

「へぇー、お兄さん。ワタシに勝てるつもりなんだ」

「知り合いに自分を強いと思って挫折して、すっかり牙の抜けた女性がいましてね。あなたにはそうはなっては欲しくありません」

「上等だ!その喧嘩買った」

中庭に出て決闘のように二人は相対する。

パトリックは自室兼研究室に戻ったため、アンドレが立会人となり二人の実践稽古という形の喧嘩、少なくとも美咲はそう思っている。それを見届けることになった。

そしてその勝負は一刀を振り終わる前に終わった。

アンドレの目には何が起きたかまた分からなかった。

俊足でいきなり距離を詰めて背中から振りかぶられた大太刀の一閃がシャルに襲い掛かった。そう見えた直後、シャルの身体は美咲を抱きしめられそうな程の距離に間合いを詰めており、その大太刀は彼の手の内に握られている。下段から左切り上げの状態で大太刀は寸止めされていた。

「得物の長さに身の丈が合っていない。その上、その武器の形状や長さからして騎乗で上から振り下ろして使う得物です。闇雲に刃物を振るって、自分が強くなったと思い込んでいるただの子供ですね、あなたは」

目が傍にある。感情を覗かせない虚ろな目が、ただ視ている。

「先ほどの動きも、主に肩と背筋を使った振り下ろしで身軽な剣士の動作ではありません。あなたのそれは甲冑剣法の振り方です。戦術以前に基礎が全くなっていません」

目のついた顔は口で言葉を紡ぎ出し、意味のある音を発した。それは人の言葉だったが、人間の感情が一切ない。人間味のない。平淡な口調だった。

「魔物やそもそもロクに教育も訓練も受けていないような魔族を相手には、勝手無流が通じても。同程度以上の身体能力を持つ相手が武術を修めていたらあなたは負けますよ。

実戦経験に裏打ちされ体系的な技術の集大成が武術というものです。技の研鑽とは、その状況に応じた動きを再現する訓練です。何をどうするかによって武術の流派が分かれ、各々が自身の想定する敵を弑するためその技を収斂させていくのです。あなたは何も分かっていない。ただ人の動きを真似てその意味を理解せず、刃物を弄んでいるだけだ」

耳元から音が遠退き、少しだけ呼吸が楽になる。

「だから弱い。遊びのつもりなら刃など持つな。女子供が戦場に居るだけで目障りだ。ただ無様に死ぬだけならいい。殺されもせず虜囚の辱めを受け踏み躙られて嬲られて玩ばれて、忌々しい下種共の種を孕まされて生まれて来たガキがオレだ。本当に、本当に、うんざりする。無様を晒すくらいなら今ここで死ね!」

「ああ、すみません。ちょっと感情的になってしまいました。これは八つ当たりですね。お詫びいたします。ごめんなさい、虎徹さん」

「あっ……あ、ああ、う、ん」

何とか呻くように美咲は応えた。シャルの顔には親愛の気色さえある表情を浮かべ謝罪しているが、目は暗いままだ。

「魔物退治に参加するならせめてお遊戯レベルから卒業してからにしましょう。剣の心得はありませんが、最低限度の教育は出来ると思いますから。今から頑張りましょう!

大丈夫です。怪我しても痕が残らない程度に手加減して、可能な限り緩く温い易しい初頭訓練から始めますから、首を横に振れば千切れると観念して付いてきてくださいね」

目に光が戻ったシャルはアンドレが初めて見る嗜虐心に満ちた笑みを讃えている。

「もちろんアンドレさんも一緒ですよ、仇討ちをしたいのは貴男なんですから」

寿命が縮まる。その確信と共に、ディルはこの威圧を受けて屈したと理解した。


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