第52話

 王族専用の小さな中庭はとても美しい。私はアーサーにエスコートされて中庭で2人で寄り添う。

月夜に照らさられた庭園は神秘的な輝きを放っていた。


「素敵ね。どうやら私もアーサーの魔法にかかってしまったみたい」


柄に無い事を口にしてる自覚はある。恋って恐ろしいね。アーサーとの時間は甘くゆっくりしていて居心地がいい。


 アーサーはそっと立ち上がり手を引いてくれる。薔薇を1本そっと手折り、刺を取って耳に差してくれた。


「アイラは誰よりも美しい。このまま君を連れ去ってしまいたい」


そっと抱きしめられる。


「アーサー、私もです。もっとアーサーを感じたいです」


手を取り、目と目が合い、口付けを、


「アーサー様、ここにいらしたのですか。私という婚約者がおりながらこの卑しい女と逢引は許せませんまわ」


はぁ、空気台無し。最悪だわ。エスメ王女はずかずかと庭園に入って私を引き剥がしにかかった。


「痛っ」


アーサーも私もびっくりしたが、アーサーは私を守るように前に出て、すぐさまグレイを呼びエスメ王女を拘束した。


 エスメ王女に強く掴まれた腕が少し赤い。


「何をするの。アーサー様、私よりその女を拘束しない方がおかしいわ」


「この件については正式にポイド王国に抗議を入れておく。中庭への不法侵入と婚約者への傷害罪だ。グレイ、連れていけ。」


エスメ王女はぎゃあぎゃあと騒ぎながら庭園を去って行った。


 本当、いい雰囲気ぶち壊しよ。って、ふとみるとアーサーの胸板が。さっき抱きしめられていたんだった。


「アーサー。は、恥ずかしいわ」


離れようとするがそのまま抱きしめられる。


「アイラ、腕を見せてごらん。赤くなって。怖い思いをさせたね」


「アーサー殿下。ポイド王国宰相がお呼びです」


 従者から声がかかるとアーサーは仕方なく体を離す。アーサーにエスコートされながら陛下達のいる部屋へ案内される。部屋には陛下も王妃様もいてポイド王国宰相もいた。


「この度は第四王女のエスメ王女がお騒がせして申し訳ありませでした。特にアーサー様の婚約者であるスペンサー公爵令嬢様にはご迷惑をお掛けしました。私は国に帰り、すぐさま王へ報告します。」


「エスメ王女よりアイラちゃんの方が賢くて美少女よ。みんな挙ってアイラちゃんを標的にするのは何故かしらねぇ」


「この度の王女の行動は正式に抗議させて頂く。隣国との亀裂が入らぬよう対応をしてくれ」


陛下はそう言い残し席を立った。ポイド王国宰相は終始青い顔をしていたわ。まぁ、しかたないわよね。こればかりは。


さて、アーサーと一緒に馬車に乗り、帰宅する。今日は王都の邸に帰宅。馬車の中ではアーサーはずっと恋人繋ぎだった。


もう邸が目の前となった今がチャンス。


ドキドキする気持ちを抑えつつ、


「そうだわ、アーサー。今日はありがとう。今までで一番嬉しかったわ。私の王子様」 


そっと頬に口付けする。可愛いキスよ。口がそっと触れる程度。


 馬車のドアが開くとアーサーは魂が飛んだ状態で馬車から降ろしてくれた。


「お休みなさい」


手を引っ張るとアーサーは少し前屈みになる。


今だわ!


 キスしてそのまま早足で邸の中に戻る。ふふふ。してやったわ。


 私はそのまま上機嫌でリリーに寝る準備をしてもらい布団に入った。明日からはまた領地に帰り研究の続きだわ。



 後日聞いた話では、アーサーはその日ボーッとしながら帰宅し、謎の奇声を上げながら深夜まで部屋中ウロウロしていたそうな。


そこから数日は上機嫌で仕事をこなしていたらしい。


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