第19話賢神との対話 そして…
案内されたのはボロボロの壁が少しでも衝撃を加えたら壊れそうな家だった。
「ほら、ここが俺とじいじと住んでる家だ。ボロボロだし汚ないけどまぁ、2人は気にしないでしょ?」
「えぇ、ですが本当にここで生活するとなると大変ですね...」
「まあね!でも、3歳からこの生活してたら慣れたけどね。」
彼は魔法で水を生み出してそれを出してくれた。
「フフ、この感じだと確かに生活には困らないでしょうね。」
「であろう?ワシの孫は天才じゃからな。」
そう言って奥から痩せ細った老人が出てきた。
「と言うことは、貴方が...」
「第56代フェルト国国王、賢神イーラルじゃ
まぁ、今は貧民街のみすぼらしいジジイよ。
リセ、お前はお昼寝でもしてなさい。今から大事な話をするからの。」
5年前、追放される直前に見かけた時に彼は魔法だけでなく、とても筋肉質な身体だったはずだったのに...
これほどまでするのか、国王。
「さて、要件は大体分かっておるよ。そこのワシの孫と居眠りしとる駄女神がワシが近々死ぬとでも予言したのだろう?」
「えぇ、正にそのとうりで御座います。それで友の死を見取りに、そしてリセ様を家族として向かい入れさせてもらうためのお願いに参りました。」
彼は力なく笑った。彼自身も死期を悟っている老人から全てを奪うと言う最低な事をしているのに。
「別に気にせんでいい。ワシが人生の選択を間違えただけじゃ。」
そういう彼の人生はあまりに壮絶な物であった。
彼の娘は王族として私達の国の王子へと嫁いできた。
そして双龍を生んでしまった事を知り、その一族への罰を止めようとするのも虚しく、娘は冤罪を被り火炙りにされその後切り落とされた首を晒された。
王子は殆ど罪人と変わらない立場で暮らしている。
リセの姉も、そのまま奴隷として売られてしまった。
その彼自身も国で王位を息子に譲り我らの国王に直談判したがそのまま魔竜と共に貧民街に追いやられたのだ。
「まぁ、ワシが不憫だと思うのならひとつ願いを聞いてはくれないか?」
「なんでしょう。」
「其方らは信用できる。ワシが死んだ後、家族として迎え入れるのならリセの事を正しい道へと導いてくれ。本当の家族のように、遠慮もない温かい家庭を。唯一のワシの心残りだったリセを頼んだぞ。」
「はい、我神の名の下に誓いましょう。」
「フフ、そこでぐうたらと寝ている神にか」
笑いながら立ち上がる彼に私は敬礼をする。
「そんなかしこまらんで、もっと気楽にしなされ。」
しかし、それに気付いたのか2人とも起きてきた。
「…どこか行くの?じいじ」
「あぁ、遠いところにな。だが、また会える
。その時まで、この人達に面倒を見てもらいなさい。君達も短い間だが、最後に君と話せてよかった。」
そう言う彼の背中は少し震えていた。
先ほどの変装は発動出来なくなってしまっており、神としての本当の姿に変化していた。かつて、世界を支えた賢神が転生の儀を、消滅しに行こうとしているのだ。
「…イーラル、あんたはいっつも小言ばっかりで面倒くさかったけど、あんたが私達の側にしててくれていたから大丈夫だったんだ。
ありがとう、後は任せなさい。」
「フン、ババアが偉そうな口を叩くな。そのまま寝ていれば良かったものを。」
「クソイーラル!やっぱ最後殴らせろ!」
しかし、殴ると言ったがピタッとくっつき、
じゃあねと小声で彼女は言った。
2人とも今思い出しているのだろう。写真で見せてもらった、メガネをかけた紳士で、笑いながら暮らしていた頃の生活を...
「ま、言ってくる。」
それだけ言い残して彼は奥の部屋に片手を振りながら消えていった。
「じいじ、言っちゃった。」
リセは泣き始めた。それもそうだ、いくら恐れられている魔竜でも彼はまだ8歳なのだから
「大丈夫、あんたはあんたのじいちゃんの代わりに私と一緒に暮らすんだから。」
「ほんと?」
「うん、だから泣かないで。」
「ありがとう。」
そう言ってリア様はリセを抱きしめる。
彼女も泣くのを必死に堪えいるのに。
本当、優しいな。貴方は。
在りし日
「おい!くっついてくんなババア!動きづらい!」
「なっ!何がババアよ!あんたにのってあの低身長アホハバリガニを煽ってやんのよ!」
「そんなガキみたいな事で遊ぶな...」
「あー!こいつ人のことガキとかババアとか言ってるひど〜い!」
「黙れ!お前も仕事しろ!」
「えーめんどくさーい」
「おーい!ヒャク!来てくれー!」
「はい、やります!やります!急いで終わらせまーす!」
音声データ 586年12月9日 幸せだったあの日 王立図書館貯蔵
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