第5話 初めまして⑤
ツモリくんは、私の腕を引いて階段に
向かって歩いていった。
ツモリくんの表情は険しく、
私の腕を掴む手には少し力が入っていた。
「っツモリくん!?」
(そっちは、行き止まりっ!
っ...、あ、れ?)
そこに広がるのは、不思議な世界。
端が見えない。見渡す限りに思い出のもの、
知らないもの、無くしたもの、
そこらじゅうに、時間の合わない時計が
散らばっている。私の腕時計の針は、
(何!?この動き...?)
ぐるぐると回っていた。
私は不安になって、ツモリくんをみた。
彼の姿は変わっていた。私の知っている
同じ学生服を着たツモリくんは
何処にも居らず、そこには和服を着た、
死神のように冷たい表情をした
ツモリくんがいた。
私は背筋が凍るような感覚がした。
「...。」
ツモリくんは、無言のままだった。
周りを見れば、朱色と黒、白の色が塗られている色味のない世界。花でさえも白黒だ。
よく見れば、よくわからない
生き物の様なものが沢山いる。
(何、ここ...、怖いっ!)
後ろを向けば、学校の廊下が見えた。
しかし、それは私の目の前で見えなくなった。
その代わり、目の前に光る道が見えた
と思ったら、目の前に鳥居が並んだ階段の
上に神社のような建物が見えた。
気づいたら、どこか和菓子屋の様な雰囲気のある、お店の前に来ていた。
「いらっしゃいませ。
こちら忘れ物販売所でございます。」
知らないおばあさんがそう言った。
ツモリくんが、私の方に振り返った。
「ツ、ツモリくん、あの...、ここは何処?」
「千尋、大丈夫ですよ。」
おばあさんがそう声をかけた瞬間、
ツモリくんは、何処か緊張が解けたように
安堵した表情を浮かべた。
「石徹白 小春さんですね。」
「えっ?あ、はい。」
「...。そうですか。千尋、お茶の用意を。」
「はい」
「石徹白さん、こちらへどうぞ。」
「はい...、お邪魔します。」
私は状況も飲み込めぬまま、
そのお店の中に通された。
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