第1話 初めまして❶
今日は、吉日。
学校に転校生がやってくるらしい。
クラスだけでなく、学年は最近その話で
持ちきりだった。
しかも、自分のクラスに来るらしい。
転校生なんて、俺の中では
さして珍しい事もなかったが、
他の人にしてみれば一生の学校生活の中で、数回あるかどうかの事なので
それなりに大きなイベントなのだろう。
(しかし、この時期か...、
時期だけは珍しいな。)
どんな奴が来るんだろう。と、少し楽しみに思いつつも、転校生の来る日は吉日なので、また見られる事はないのだろうと思うと、
少し寂しくなった。
俺は転校生の自己紹介が終わるまで、教室に入らなかった。まぁ、入ってもどうせ
見えないので、入ってもよかったのだが、
なんとなく、本当になんとなく誰も
自分が見えない事を再確認する様な場所に
いたくなかったのだ。
朝のHRが終わってすぐ、教室内が瞬く間に
騒がしくなって、今日来た転校生が
質問攻めにあっていた。
転校生という事もあるが、東京から来たという事も大きな要因だろう。しかし、それも束の間。
誰かが気づいて言ったのだろう、
みんなドタドタと分かりやすく焦って、
次の時間の教科の部屋へ行ってしまった。
転校生の女の子は、置いてけぼりに
されしまっていた。
(場所も分からないだろうに、
置いていかれたのか、可哀想に。)
彼女は俺が見えない人の様だったので、俺は自分には無関係な他人事として、その状況を眺めていた。
しかし、いつ何が起こるかは
分からないものだ。彼女は不幸にも、
いわゆる異世界や境界、狭間などと
呼ばれている場所に繋がり易くなる場所を
踏んでしまった。
しかも、なんの偶然かそこに
水があったため、彼女はこちら側へ
迷い込んでしまった。
(あぁ、可哀想に。
この子は今日、本当に運が悪い。
今、この子の視界は真っ暗で
何も見えないのだろう。
仕事をしなければ...。)
そう思ったのも束の間、
俺は自分の目を疑った。何故か、それは普通止まって泣き出すだろう状況で、彼女は一切動揺せずに、なんと歩き続けた。しかも、俺の肩に触れたのだ。
(この子は、視界が何も変わって
いないのか?いや、それより
こちら側に迷い込んで俺が見える
とはいえ、触れられるものなのか?)
俺は一瞬混乱した。そして、驚いて彼女を
見続けていたら、彼女は咄嗟にこちらを
向いて、謝罪をしてきた。
「あっ、あの、すみません!」
俺が反応する前に隣にいた奴が反応したので、少し安心した。
(あぁ、こっちか。)
しかし、俺の安心は直ぐに消えた。
なんと、彼女はなんの迷いもなく
現とは反対の方向に迷い込んでいくからだ。
(おいおい...!あっちは色んな奴がいるから、
生きてる子だけじゃ危ないし、
最悪、現に戻って来れないぞ...!?
やばい、時間がない!あれ以上進んだら、
僕でも追いつけない...!)
気づいた時には、カラダが動いていた。
「あのっ...」
焦っていた僕は、無意識に腕を掴んで
引き留めていた。
「え?は、はい。
あっ、先程は失礼しました。
それで、何か御用ですか?」
驚いた彼女が僕を見つめている事に
気付いた時、我に帰った僕は、
とてつもなく後悔し、動揺した。
(あっ...!やってしまった...。
女の子の腕を掴んじゃった。
えっ、これって最近セクハラとか
なるのかな?というか、
ハラスメントって何?
えっ、この状況どうすればいいの?
引き留めるのは成功したけど、
なんて言えばいいの?
あれ?なんていおうとしてたんだっけ?)
しばらくして、先に彼女の方が
早く口を開いた。
「あ...の、大丈夫ですか?」
彼女の澄んだ凛とした優しい声に
まとまらない思考を抱えながら、
何とか言葉を絞り出した。
「...あ、あぁ、すみません。
心配してくれて?ありがとうございます。」
「はぁ、それで私に何か用ですか?」
「いっいえ!というか、あのもうそろそろ
授業、始まりますけど教室移動なので場所
分かりますか?分からなければ、
案内しますよ?」
「ほんとですか!あっ、
是非お願いしても良いですか?」
彼女の嬉しそうな何処か安堵した表情を見て俺も自然と笑顔になった。
「もちろんですっ」
それから僕はその子と少し話をした。
「何処から来たんですか?」
「東京からです。」
「席、何処になりました?」
「窓側の一番後ろの角です!
みんなから、いいなぁ!って
言われるんですけど、なんでか
よく分からなくて、あっ!良ければ教えて
くれませんか?」
「それはですね、授業中に先生に
見られたくないとか、
目立ちたく無いとかって言う理由です!
前の学校では、そういう事って
無かったですか?」
「あっ...、学校には通えて無かったんです。
それでも、みんなで勉強をしてる時は、
そういう事は無かったかな...?」
「っごめん、そうだったんだ。」
僕は直感的にこれ以上聞いてはいけない
と思い、「いえいえ、そんな。」と笑う彼女に返す言葉が見つからなかった。
...しばしの沈黙のあと、またしてもその沈黙を破ったのは、彼女だった。
「そういえば、お互い名乗って
ませんでしたよね?お名前を伺っても?」
気まずい雰囲気になってしまった事を
申し訳なく思っていたが、相手が先に
話してくれて、少し安堵した。
「あぁ、そうだね。」
俺はこの時、また会う事を確信していたので、
また会ったと時の会話の口実作りの為に、
「じゃぁ、苗字だけはどうかな?
名前は次会った時に教えてあげる。」
「次、会えますかね?」
「うん!絶対会えるよ!
というか、同じ学校でしょ?」
「そっか、うん!じゃぁ、次会った時に
教えて下さいね?約束ですよ?」
「わかった。絶対ね。」
「では、私から、イトシラです!」
「あぁ、津守です。よろしく。」
「はい!こちらこそ!
いやぁ、なんか照れますね。」
「っ、うん...なんか改ってってなると、
照れるね。」
そして再び二人とも黙ってしまったが、
今度はさっきみたいに気まずくは無かった。
気付いたら美術室の近くに着いていた。
(仕事、完了かな?
彼女を送り出して、塞いで戻らないと。
あと、あの人に報告しないとな。)
「それじゃぁ、そこを右に曲がって真っ直ぐ
行くと、美術室なので。
道具は多分、貸して貰えますよ。
では、僕はここで。
いってらっしゃい。」
「?はい、ありがとうございます。
行って参ります。」
少し寂しい様な嬉しい様な気がした。
(また会えるかな...って何考えてるんだ
僕は⁉︎また会えるに決まってるじゃないか!
よく考えれば隣の席だし...!
人恋しいのかな?)
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