こちら忘れ物販売所

波須野 璉

第1話 初めまして①

いらっしゃいませ。

長旅、お疲れ様でございました。

さぁ、あなた様の忘れ物は何ですか。

お代は、あなた様の記憶で…


高校一年生の春

初めて学校に来た。

他の人達が入学式を終えて一ヶ月くらい経った頃、異例の転校生として学校に入った。

「石徹白さん、入っておいで。」

先生が、扉の外で待っている私に声を掛けた。

一年四組私の初めてのクラスの名前。

ここから私の夢にまでみた学校生活が始まる

と言う期待とワクワク感、

そして初めての自己紹介を

うまくできるかな、と言う緊張と少しの恐怖を胸に、私は初めての教室の扉をくぐり、

先生に指示されるがままに名前を黒板に

書いた。

「初めまして、東京から来ました。

 石徹白 小春と言います。

 皆さんが入学した時期とは

 少し遅れてですが、仲良くしてくれると

 嬉しいです。

 宜しくお願いします。」

「はい、有り難うございました。

 石徹白さんです。

 みんな絶対に仲良くとは言いませんが、

 話しかけたり、なるべく積極的に輪の中に

 いれてあげて下さい。

 それじゃ、石徹白さんの席は...、

 じゃぁ、窓側の後ろの角の席ね。

 もし、真ん中が良いようならそうするけど、

 どうする?」

「いえ、この席で大丈夫です。」

「そう、じゃそこの辺りの周辺の人達、

 分からない事も多いだろうから、

 教えてあげてね。

 それと、津守は休みね。

 はいっ、以上

 ホームルーム終わりっ。」

私は席に着き、先生の声を聞いて初めて

あぁ、今、学校にいるんだなぁ。

と言う自覚が持てた。

朝のホームルームが終わると、

クラスの子達が私の席を囲む様にして

話かけに来てくれた。

こんなに人に囲まれて話かけられたのは、

生まれて初めてだったので、

恥ずかしさと緊張と嬉しさで、

少し照れるようなむず痒さがあった。

みんながしきりに話しかけてくれるが、

私は、頷いたり適当に答えるだけだったので、

私も何か話したり、聞いたりしなければ、

と思って辺りを見回すと、

隣の席に誰も座っていない事がわかった。

隣の人のことは少し気になる為、

思い切って聞くことにしたのだが、

察しのいい女の子がいて、

「あぁ、もしかして隣の人、

 気になってる?」

と、先に言われてしまった。

でも、先程の東京の何処から来たの?や、

なんでここにきたの?好きな子いる?

気になる子できた?などの質問に比べると

圧倒的に答えやすかった。だから、私は

「はい。その、何日かだけかも知れないし、

 何ヶ月かも知れないけど、

 隣の人は一番近くて、

 頻繁に顔を合わせると思うから、

 どんな人かは事前に知っておきたいなって

 思って...。」

「そっか、うーん...どんな人ね。

 モテる!」

「持てる?何を持つんですか?」

「あー、その持てるじゃなくて、

 んー、まぁ、要するに...

 女の子に好かれやすいかなぁ」

「へー。」

「もちろん男子とも仲良いけど、

 気さくでいいやつだよ?

 まぁ、見れば分かるよ!」

らしい。

それから、授業開始五分前のチャイムが

鳴り始めて、みんなバタバタと準備をして

行ってしまった。

そのあとすぐに一人女の子が戻って

来ようとしたが、男の子に呼び止められて

きびつを返して行ってしまった。

(どうしよう。教室の場所も何も

 分からないのに、みんな走って行くから

 追いつけないよ...)

そう思っいながら、早歩きと走りの間くらいのスピードで廊下を移動していると、

廊下で他の男子と話している様に見える

男の子に肩がぶつかってしまった。

男の子は酷く驚いた顔をしていた。

「あっ、あの、すみません!」

私は、すぐさま謝罪を入れようと思い、

話しかけたが、違う人が

反応してしまった様だ...。

「えっ?何が?っていうか、

 君が噂の転校生?

 あぁ、そうじゃなくて、どうしたの?」

(お前じゃない!!いや、あなたじゃない!

 そのと・な・り!)

「いや、その大丈夫です。

 すみません。失礼します。」

私は、今はそんなことにかまっている暇が

無いと思って、歩き出して階段の前辺りに

来た時、不意に手を軽く掴まれ、

声をかけられた。

「あのっ...」

さっきぶつかってしまった男の子だ。

「え?は、はい。

 あっ、先程は失礼しました。

 それで、何か御用ですか?」

と返すと、

口を開けたまま、固まってしまった。

「......。」

「あ...の、大丈夫ですか?」

「...っ!?あ、あぁ、すみません。

 心配してくれて、ありがとうございます。」

「はぁ、それで私に何か用ですか?」

「いっいえ!というか、あのもうそろそろ

 授業、始まりますけど教室移動なので場所

 分かりますか?分からなければ、

 案内しますよ?」

「ほんとですか!あっ、

 是非お願いしても良いですか?」

「もちろんです♪」

(はぁ、よかった。

 これで迷うことはない!にしても、

 綺麗な顔だな。モテそうな人とは

 こういう人なんだろうな...

 もしかして、隣の席の子だったりして...

 それはないか。)

それから二人でちょっとした会話をして少し行った所で、男の子が

急に足を止めたので振り向くと、

「それじゃぁ、そこを右に曲がって真っ直ぐ

 行くと、美術室なので。

 道具は多分、貸して貰えますよ。

 では、僕はここで。

 いってらっしゃい。」

「?はい、ありがとうございます。

 行って参ります。」

(親切な人だったな。

 優しそうで怒らなさそう。

 ま、そういう人が一番怖いんだけど。)

この時、ふと病院の主治医の先生を

思い出したのは、しょうがないと思う。

美術の時間中あの男の子の間の抜けた顔と、

もちろんといってくれた時の

綺麗な笑顔が頭から離れなかた。

次の授業は一年四組で行われるらしいので、私は複数人の女子と一緒に自分達の教室に

戻った。

きた時の道は、何処にもなかった。

(気のせいよね?

 きっと記憶違いしてただけ...だよね?

 そう!絶対そう!そうに決まってる!)

私は何度も自分に言い聞かせたあと、気を取り直してみんなと話しながら、自分達の教室に戻った。

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