九 河童の話を聞きにくる人たちのこと
『本物の河童からもらった甲羅を背負っている男がいるらしい』という噂はすぐに広まった。近隣の村からも、訪ねてきた者がたくさんいた。
その中には、隣村の床助もいた。河童をきゅうり畑で見つけたが、酔っ払いの見間違えだろうと、だれにも信じてもらえなかったやつだ。
床助は、猪の肉を持ってきた。喜兵衛の話に相づちを打ちながら、自分の見た生き物とまったく同じだと気を良くして帰っていった。やっぱり自分は正しかったんだってな。
旅芸人などという者もやってきた。こういう連中は、貧しい村にはめったに立ち寄らない。いつも大きな町をめぐって芸を披露して暮らしている。
喜兵衛が得意げに話すのを、旅芸人は熱心に傾聴していた。それから腕を組んで座ったまま、じっと考え込んでいた。
しばらくすると、何かひらめいたかのように、ぱっと立ち上がった。それから、喜兵衛の家に居合わせた村人たちの前で、聞いたばかりの話をもとに、河童の物語を作って、即興で舞いながら歌ってみせた。
俺もそこに居合わせたが、あれは愉快だった。一人で何役もこなして、おかしな動作をしながら、物語が伝わるように歌っていた。
村を訪ねてきたのは、旅芸人だけじゃない。なんと偉い殿様の使いまでがやってきて、喜兵衛に城まで来るようにと言った。
村人たちは全員で喜兵衛を送り出した。殿様に呼ばれるなんてことは、普通なら一生起こらない。だからみんな、喜兵衛を村の代表ということにしたかったんだな。
使いの者たちと共に、喜兵衛が歩いていくのを見て、俺たちはとても誇らしく思った。全員で、喜兵衛の甲羅が小さくなっていくのを見送っていた。
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