第46話 ちゃんと見えていますか
*
粉雪が降るこの小さな町の——町と呼ぶより村に近い——入り口はこじんまりとしているが、ほんのり雪化粧をした石造りの外壁は
「——紹介しよう。彼女が先ほど話したリリアナ・ケググット伯爵令嬢だ」
「あら、こちらが坊っちゃまの?」
私は彼らの腰の辺りで視線を泳がせていた。できる事ならすっぽりとフードを被り、頭ごと隠してしまいたかった。
「リリアナ。彼らは古い友人でシモンとノア。モリスへ向かう道中にはいつもこの町に立ち寄って、彼らに食事を振舞ってもらっている。この町の町長夫妻だが、私たちの訪問を聞いて出迎えてくれたそうだ」
——では公爵が『名シェフ』と言っていたのは、お二人のうちのどちらかという事かしら?
「初めまして……リリアナでございます」
丁寧に挨拶をしたあとも、町長夫妻の顔色を見るのが怖くて目線を上げることができない。
人は嫌いな人間を前にすれば、瞳孔が縮まり冷たい印象になるそうだ。どんなに取り繕っても相手の目を見れば感じ取ってしまう。
「ご立派になられた坊ちゃまがお訪ねくださったと思ったら。こんなに愛らしい奥様までお連れいただいて。良い冥土のみやげが出来ましたわ」
——奥様……?
驚いて顔を上げれば、老齢のご夫婦がニコニコと穏やかで優しい笑顔を向けている。忌み子の私を見ても、驚いていないようです——…。
真っ白な長い髭を湛えた人の良さそうなシモンが、
「いや奥様ではないよ?まだ婚約者様だよ、ノア」
心の中で訴える、違いますっ。私、奥様でも婚約者でもありません。
「でも、もうすぐ奥様になるでしょう?どちらでも同じですよ」
「ふむ。そうじゃな、同じじゃな!」
お二人の“同じ“の基準がわかりませんっ。
ディートフリート様、否定しなくていいのですか!?
「愛らしい妻だろう?」
否定するどころか高度すぎる冗談を言って微笑んでいる。
「お似合いのお二人ですこと」
あの、ちゃんと見えてますか!
「リリアナはケグルルット家の箱入り娘なんだ。世間知らずだから色々と見せてやりたい。私も久方ぶりだから、シモン、案内を頼めるか?」
否定もしなければ、私を箱入り娘だなんて。ある意味あってますけど……。(世間知らずはその通りです)
公爵の顔を何度も見上げるのだけど、機嫌が良さそうにご夫婦と会話を続けるばかりで、私と目を合わせようとしない。
公爵の奇行もですが、お
ご年配の方であるほど、忌み子のことを良くご存知だと思うのですが……。
「では行こうか」
ようやく目を合わせてくれた公爵が、私の耳元に言葉を寄せる。
「……私と君の関係性が複雑で説明が面倒だから、旅のあいだ、君は私の婚約者だ」
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