第38話 琥珀菓子(1)
*
「落ち着いたか?」
ぐっしょり濡れたハンカチを握りしめ、勇気を出して顔を上げる。
「……はい」
鼓動を叩く音はもう聞こえないけれど、二度も泣いたせいで目蓋が痛いくらいに腫れている。こんなに酷い顔を公爵に見られて……恥ずかしい。
それに、お菓子を差し出されて号泣するなんて!自分でも意味不明すぎて笑っちゃう。
見れば私の真横に公爵がいて。
目の前に飛び込んだのは、白い礼服の胸のボタン……そういえば、こんなに接近したのは初めてだ。
おもむろに見上げれば、前髪の奥のエメラルドの瞳が心配そうに私を見下ろしていた。間近に揺れるその虹彩は、とてもとても綺麗で——。
「そんなに怯えた目をしなくても」
「ぇ……」
「『
怖いか、と、問いかける言葉に驚いて、何度もまばたきしてしまう。
「君を怯えさせ、泣かせるようでは、私もまだまだだ」
「怯えさせるなんて、そんな……っ」
「ではなぜ泣いたのだ?」
「それは……」
あなたの優しい言葉が、こうしてまた会えたことが、嬉しくて——。
「お、お菓子が、嬉しくて」
って、違うでしょ……!
いつも肝心な時にまともな言葉が出てこない。
上の方でフッと笑った気配がした。
公爵は「それが理由だとは思えないが」と小さく呟き、テーブルの上の箱に手を伸ばした。
「買い物は好きか?菓子を泣くほど喜んでもらえるとは思わなかったな。今度は二人で街に出よう。昔から公爵家が懇意にしている茶菓子の名店があるんだ」
いいぇ——私なんかが。
『忌み子』の私なんかが街の中を歩くなど、許されるはずがありません。
あなたに、恥をかかせてしまいます……!
「一緒にだなんて……そんなこと」
無意識に何度も、首を左右に振っていた。
そんな私を見て公爵は首を傾げる——そのうち「そうか、」と目蓋を伏せた。
「こんな風貌の私が一緒だと、リリアナに気まずい思いをさせてしまうな」
「ち、違いますっ。気まずい思いをするのはディートフリート様の方です。私は『忌み子』、ですから」
「……忌み子?」
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