第34話 会いたいの



「 …—— へ??」


ちょと待って……思考が追いついてない。


「荷物をまとめろと言われたから、お城を追い出されるのかと……私、言い付けを破ってしまったから」


「追い出されるだなんて、それで涙を?!旦那様からお叱りを受けて落ち込んでおられるのだとばかり……。リリアナ様のお気持ちも知らずに、呑気にはしゃいだりして申し訳ありませんっっ」


身体の力が抜けていく——つまりは、出て行かなくていいってことよね?


「……良かった……」


すっかり脱力してしまい、へなへなと床に座り込んだ。驚いたユリスが駆け寄って、腑抜けみたいに呆ける私を抱きしめてくれる。


「申し訳ありません、リリアナ様を、不安なお気持ちにさせてしまって……!」


「ユリスっっ……違うの。私の、思い込みのせいなの」

「リリアナ様の状況からすれば、そのように考えてしまわれるのもわかります。私からきちんと、モリスへの旅の事をお伝えすべきだったのです」


言いつけを破って失望させた私を、公爵がどうして別荘なんかに連れて行こうとしているのかは知れない。だけど今は何よりも、『思い込み』が外れた事に心からホッとして。

 

「良かった……あなたとお別れじゃなくて。これっきりじゃなくて」

「勿論でございます。旦那様だって、そんなに簡単にリリアナ様をしないはずです」


「あぁ、ユリスっっ」



うえぇぇーーーん。



嬉しい時に流す涙なんて、いつぶりだろう?私はユリスの首根っこに思い切りしがみついた。


いつか小さい頃、お母様に諭されたことがある——『あなたは勘違いと思い込みが過ぎる』と。


それに私はいつから、こんなふうに物事を悪い方に考えるようになったのだろう。

きっと叱られる、きっと怒鳴られる、殴られる……きっと、きっと。

その『きっと』が、ケグルルット家にいた時は必ずなってきたものだから……いつからか自分の思いを、疑わなくなってしまっていたんだ。


お母様……今度ばかりは大反省です。

公爵に『城を出て行け』と言われたわけでもないのに、勝手に決めつけて、勝手に悲しんで。お城を出たら、公爵にはもう二度と会えないとまで、思い詰めて。

 

「ユリス……。ディートフリート様は、今どちらにいらっしゃるの?」


ユリスが言った事は嘘じゃなかった。

白椿城に、ピアノは——禁断の間の、あの白亜のグランドピアノを除いて。入ってはならない場所に置かれたものは、無いのと同じだから。


私、まだ謝ってない。言いつけを破ってあの部屋に入ったこと。勝手にピアノを弾いたこと。

泣いて酷い顔で恥ずかしいし、公爵を失望させてしまったあとで凄く気まずいけれど……とにかくきちんと謝りたい。


謝りたいのは勿論だけれど——。


「ディートフリート様に、今すごく会いたいの」





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しばらくシビアな展開が続きましたが、追いかけてくださり有難うございました。

ここから先は、お砂糖をどんどん入れていきます。モリスのお城(別荘)に到着後は作者の大好物、幸せなイチャコラ編です。珈琲をお供に楽しんでいただけると嬉しいです!


年末年始につき更新ゆっくりになりますが、引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。



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