第33話 明日が来れば(2)


(1-続)



「噂って……何が、なの」


「残念ながら私は聴けませんでしたが、リリアナ様は相当レベルの高いピアノ奏者だと」


思いがけない言葉に驚いてしまったが、そんな事が噂になったところで、私の身の振りが変わるわけではないのだ。


「元気を出してください、リリアナ様っ。私たち使用人はリリアナ様の味方です。ピアノの事だって……お上手なのですもの!旦那様もきっと、何らかの『手立て』をくださるはずです。ですから今は終わった事よりも、明日のことを信じましょう……!」


ユリスの優しさは嬉しいのだけれど——。

実家に帰されたあとの事が頭の中にチラついて、明日を信じるとかそういう余裕なんて、私には残っていないのよ。


「あぁっ……ワクワクいたしますね!今夜は眠れるかしら。って、私が言うのも変ですけれど、何だか自分の事のようで」


クローゼットから数枚のワンピースを選び取りながら、ユリスが声を踊らせる。

ユリスったら……そんなにっ。眠れなくなるほどに、明日が来るのが嬉しいの???


「モリスの湖畔はとても美しいのですって。旦那様が今日、急遽決められたものですから——使用人の数名が先に到着して、今頃は慌てて別荘の大掃除をしているんじゃないかしら」


「……別、荘って、なんの事?」

「ランカスター公爵家の、モリスにある別荘です。私がお部屋に伺う前に、リリアナ様に知らせを送っているはずですが……届いておりませんでしたか?!」


「覚えが無いのだけれど」


「何かの手違いで、通達が遅れたのかも知れませんね。持ち物のお支度したくをされていたので、てっきりもうご存知だと。リリアナ様は明日から数日間、旦那様とお二人でモリスの別荘に滞在されるのです。あぁ……お二人と言っても、警護の者と使用人数名が同行しますけれど」


「 …—— へ??」


ちょと、待って……思考が追いついてない。


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